2019年09月02日、世界を代表するトップブランドが中国のインターネット上で次々と激しい批判にさらされるという、異例の事態が続いています。イタリアの高級ブランド「ヴェルサーチ」やアメリカの「コーチ」、さらには巨大IT企業の「アマゾン」までもが、相次いで抗議の的となりました。この騒動の火種となったのは、Tシャツのデザインやウェブサイト上における「香港」および「台湾」の地域表記です。
これらの企業は、香港や台湾をあたかも一つの独立した国家であるかのように分類して記載したため、中国のネットユーザーから「主権の侵害だ」として猛反発を受けました。特にSNS上では「中国の領土を分割しようとしている」といった怒りの声が拡散され、ブランドアンバサダーを務める中国の人気タレントたちが次々と契約解除を発表する事態にまで発展しています。不買運動を恐れる企業側は、すぐさま謝罪文を出すなどの対応に追われました。
ここで専門用語として解説しておきたいのが、中国政府が掲げる「一つの中国」という原則です。これは、中国大陸と台湾などは不可分であり、中華人民共和国が唯一の合法的な政府であるという考え方を指します。国際ビジネスにおいて、この政治的アイデンティティは非常にデリケートな境界線となっており、表記ミス一つがブランドの存続を左右するほどの「地政学的リスク」へと直結する仕組みになっています。
今回の騒動の背景には、単なる消費者の怒りだけでなく、中国当局による無言の圧力が存在している可能性も否定できません。香港での民主化デモが激化する2019年の情勢下において、中国政府は主権に関わる問題に対してかつてないほど神経を尖らせています。外資企業にとっては、巨大な中国市場の魅力と、国際的な表記基準との間で、極めて難しい舵取りを迫られている状況と言えるでしょう。
筆者の個人的な見解としては、グローバル企業の「配慮」のあり方が問われていると感じます。各国の文化や統治体制を尊重することはビジネスの基本ですが、政治的な意図がない単純な表記ミスまでがこれほどまでにバッシングされる現状には、行き過ぎたナショナリズムの危うさを感じずにはいられません。企業は今後、単なるデザインのチェックだけでなく、深い歴史認識に基づいたリスク管理体制を構築することが、これまで以上に不可欠になるはずです。
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