🧬DNAとAIが解き明かす古代の謎:考古学を変革する最新技術と世紀の大発見

静かな発掘現場で遺物を探し、古文書を紐解く――。私たちが抱くそんな伝統的な考古学のイメージは、今、劇的な変革の時を迎えています。近年、最新の科学技術がこの分野に次々と導入され、研究の方法論そのものが大きく変わりつつあるのです。特に、客観的なデータに基づいた検証が可能になったことは、長年の謎を解き明かし、歴史の定説を覆す可能性を秘めた、大きな進歩であると言えるでしょう。

この革新の中心にあるのが、質量分析計(しつりょうぶんせきけい)と呼ばれる、非常に高価な最先端の分析装置です。これは、物質を構成する分子の質量を精密に測定する装置で、2002年のノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一シニアフェローらの研究成果によって、タンパク質などの大きな分子でも壊さずに分析する技術が確立されました。この技術を考古学に応用することで、わずかな遺物からでも、その素性を詳細に特定できるようになったのです。

質量分析計を駆使する研究者の一人が、奈良女子大学の中沢隆教授です。教授の研究室では、古代の動物の骨や遺跡に残されたタンパク質を解析し、そのアミノ酸の並び方を読み解くことで、動物の種別や品種を特定しています。例えば、現在のアゼルバイジャンやヨルダンで発見された、今から8千年から3万年前の動物の骨に含まれるコラーゲンなどのタンパク質を調べ、当時この地で暮らしていた人々が狩猟・飼育していた羊とヤギを正確に区別できるようになったのです。これにより、古代の動物の分布や家畜化の歴史に関する、より具体的な手がかりを得られるようになると期待されています。

これまでの伝統的な考古学では、骨や歯の形といった形態的特徴から動物の種類を推定することが一般的でした。しかし、質量分析計を使うことで、たとえ形が判別できないほど砕けてしまった骨であっても、科学的な調査対象に含めることができるようになります。検証可能な明確なデータを示せるため、この革新的なアプローチは研究者たちの間で好意的に受け入れられ、活用する動きが広がりつつあります。私も、データが乏しい分野において、確固たる科学的根拠が議論のベースになることは、大変意義深いことだと感じています。

質量分析計が一躍注目を集めたきっかけは、日本の古代史を揺るがすかもしれない大発見でした。奈良県桜井市にある3世紀頃の纒向(まきむく)遺跡から出土した絹の分析です。当時、絹は「中国発祥」というのが世界的な定説でしたが、中沢教授の分析によって、この絹が日本在来のヤママユガのものだったことが判明しました。この事実は、日本に古くから養蚕の技術が存在した可能性を示唆しており、養蚕の起源を巡る長年の論争に一石を投じるものとして、高く評価されています。

また、この技術は美術史の分野にも大きな影響を与えています。筑波大学の谷口陽子准教授は、仏教壁画に使用された絵の具の材料を質量分析計で特定しています。アフガニスタンにあるバーミヤン遺跡の仏教壁画からは、2019年に、絵の具に馬のタンパク質から作られたニカワが含まれていたことが判明しました。仏教の教えでは、動物を殺生してはいけないとされています。それにもかかわらず、タリバンが2001年に破壊した大仏などからは、牛のタンパク質のニカワが使われていたことが既に明らかになっており、大きな論争を巻き起こしていました。樹液などが原料と考えられていた絵の具に動物性のニカワが使われていたことが、これでほぼ確実になり、仏教壁画の発達史の見直しにつながると見られています。

さらに、谷口准教授の研究は油絵の起源にも新たな視点を提供しました。油絵は、15世紀に現在のベルギー周辺の画家たちが確立したとされてきましたが、バーミヤンの7世紀半ばに描かれた壁画から、クルミかケシの油を使用した痕跡が発見されました。これにより、油絵の起源が中央アジアにも見いだされ、「シルクロードを通じて欧州へ伝播した可能性がある」という、美術史の定説を覆すような新説が提唱されています。これらの研究成果は、従来の常識を覆し、歴史や美術に対する私たちの認識を大きく広げてくれるでしょう。

スポンサーリンク

巨大ピラミッドの謎に迫る「3Dスキャン」と「ドローン」の威力

考古学の現場で活躍する最新技術は、化学分析だけにとどまりません。建物の立体的な画像を構築する3Dスキャナーや、上空からの映像撮影に欠かせないドローン(小型無人機)といったデジタル技術も、遺跡調査に革命をもたらしています。これらの技術は、巨大な遺跡の精密な計測とデータ化を可能にし、人力では困難だった調査を実現させているのです。

名古屋大学の河江肖剰准教授や長崎県立大学の金谷一朗教授らは、エジプトのピラミッドを対象に、この技術を導入しています。彼らは3Dスキャナーを用いて、最小でわずか2~3ミリメートルの誤差という、極めて精密な立体画像を現在作成中です。様々な角度からスキャナーで1秒間に数万点を測定し、そのデータを合成することで、ピラミッドの正確なデジタルモデルを作り上げています。すでに、有名なギザの3大ピラミッドを含む約10カ所の撮影を終え、2016年には、ドローンを初めて投入してクフ王のピラミッドなどの空撮も行っているようです。

従来の考古学では、ピラミッドを構成する数百万個の石材の大きさや加工の跡、組み上げられた形状などが精密に計測されていませんでした。そのため、建設時に石材を運び上げた通路や内部の空間といった、ピラミッドの建設方法に関する議論は、経験と勘に基づく学説が乱立し、客観的なデータに基づいた検証が困難でした。この精密なデジタルデータがあれば、研究者間で共通の基盤に基づいた科学的な議論を進められるようになり、長年の謎の解明に大きく貢献すると期待できるでしょう。この技術は、カンボジアのアンコール遺跡やペルーのマチュピチュ遺跡の調査にも活用されています。

さらに、衛星写真を利用して、エジプトの砂に埋もれた未発見のピラミッドを探し出す研究者も現れており、考古学の研究対象そのものが広がりを見せています。これらの最先端技術は、これまで研究者の経験と勘に頼りがちだった「人類はどこから来たのか」「祖先はどう生きていたのか」といった、根源的な謎に対する有力な解明の手法として、発掘現場や研究室に深く浸透しつつあると言えるでしょう。科学技術の進歩が、人類の歴史の謎解きを加速させることに、大きなロマンを感じます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました