翻訳家・松岡和子さんの庭の恵み!「杏(あん)ブレラ」が話題を呼んだ自家製あんずジャム作りの哲学

著名な翻訳家である松岡和子さんが、毎年恒例のあんずジャム作りについて綴られた心温まるエッセイが、読者やSNS上で大きな反響を呼んでいます。ご自身の「あすへの話題」という連載記事の中で、松岡さんは、庭に植えられたあんずの木がもたらす豊かな恵みと、ジャム作りを通して感じられる日々の生活の移ろいを、情感豊かに描写されました。このあんずの木は、松岡さんの腰ほどの丈の苗木として庭にやってきたそうですが、「ジャムを作る」という遠大な計画が見事に実現し、今では毎年の恒例行事となっています。

松岡さんがこのジャム作りを始められたのは、なんと2002年の日韓共催サッカーワールドカップよりも前であることが確実だといいます。その年、試合観戦に夢中になって火にかけたままのお鍋を焦がしてしまい、大鍋一杯分のジャムを無駄にしてしまったという思い出があるそうで、少なくとも2019年6月18日時点で、松岡さんは17年以上もの長きにわたり、毎年6月半ばにはこのジャム作りに情熱を注いでこられたことが分かります。春には可憐な薄紅色の花が咲き、散り、葉が茂る中で、ある日突然、緑の中から一斉に顔を出す丸い黄色の実の姿に、季節の確かな訪れを感じていらっしゃるのでしょう。

あんずジャム作りは、その年の豊作や不作によって、収穫の様子が大きく異なります。2019年はあんずが大豊作の年だったようで、松岡さんは実をキャッチするためにビニール傘を広げて枝に掛けるという、ユニークな工夫をされたそうです。この時の写真をTwitterに投稿したところ、作家のいとうせいこうさんがそれをご覧になり、「杏(あん)ブレラ」という、実に詩的で絶妙なネーミングを贈ってくださったといいます。このエピソードは、SNSでも大きな話題となり、「センスが光る」「素敵な言葉」といった、いとうせいこうさんの命名に対する賞賛の声や、「なんて素敵なジャム作り」「私もあんずの木を植えたくなった」など、松岡さんの生活への羨望の声が多数寄せられていました。

ジャム作りの工程の中でも、松岡さんが「あんずのへその緒」と呼ぶ筋を取り除く作業は、非常に手間暇がかかるものだそうです。これは、あんずの種と果肉をつなぐ維管束(いかんそく)のことで、これを取り除くことで、ジャムの口当たりが格段に滑らかになるのでしょう。こうして丁寧に下ごしらえされたあんずを、水は一滴も加えず、じっくりと煮詰めてから、砂糖や蜂蜜を加え、仕上げには柑橘系のリキュールであるコワントローという、本格的なレシピが披露されています。

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あんずジャム作りが映す日々の変化

松岡さんにとって、このあんずジャム作りは単なる家事以上の意味を持っているようです。毎年のジャム作りを通して、ご自身の生活や状況がどのように変化したのかを観測できる「定点」の一つだと述べていらっしゃいます。実際に、2019年のあんずジャム作りでは、庭に出る際に、ご主人が寝ていらっしゃる介護用ベッドの足元側を回らなければならないという、例年とは異なる状況があったといいます。

私は、この記事を読んで、松岡さんの日常と、あんずジャム作りへの深い愛に、心を打たれました。文学作品を深く読み解き、日本語に再構築する翻訳家としての松岡さんの繊細な感性が、小さな庭の営みの中にも息づいているのを感じます。長年にわたり手間を惜しまず、手作りのジャムを作り続ける行為は、日々の変化をただ受け入れるだけでなく、それをしっかりと受け止め、自身の生活の糧としている証ではないでしょうか。人生における大きな出来事や、時として困難な状況の中にあっても、あんずの黄色い実が示す季節の巡りと、変わらないジャム作りの手順は、松岡さんの生活に確かなリズムと安心感を与えているのだろうと思います。

手間暇をかけたからこそ生まれる、特別な味わいのあんずジャムは、松岡さんの「あすへの話題」そのものであり、読者にとっても、日々の忙しさの中で忘れがちな、丁寧に暮らすことの豊かさを思い出させてくれるような、素敵なメッセージとなっています。

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