「大好きな推しに会うためなら、学業もアルバイトも全力で頑張れる」。そんな力強い言葉を語るのは、三代目 J SOUL BROTHERSなどの熱狂的なファンである19歳の大学生、高野優衣さんです。彼女にとっての「ヲタ活」は、単なる趣味の領域を遥かに超えた、生活のメインイベントといえるでしょう。
高野さんは、コンサートの座席は前方5列以内という非常に高い基準を設けており、2019年の秋も全国各地へ遠征を繰り返しています。交通費や宿泊費を含め、その活動資金は年間で100万円近くに達するというから驚きです。こうした情熱的な行動は、現代の若者たちが何に価値を見出しているかを象徴しています。
彼女には学内の友人もいますが、それとは別に、同じアイドルを応援する「ヲタ友」という特別なコミュニティが存在します。共通の価値観を持ち、同じ熱量で語り合える仲間との時間は、何物にも代えがたい喜びとなっているようです。SNSでも「推しのおかげで人生が充実している」といったポジティブな声が溢れています。
こうした現象は、決して一部の層だけのものではありません。SHIBUYA109ラボが2019年夏に実施した調査によれば、109を訪れる20歳前後の女性のうち、実に72%が自分を「オタク」であると自認しているのです。かつてのネガティブなイメージは払拭され、今や自分を表現する誇らしいアイデンティティとなっています。
調査対象の中で最も人気を集めているのは、日本の男性アイドルや有名人で、全体の38%を占めています。また、ヲタ活に励む女性の約15%が、年間15万円以上の金額を推しのために投じているという実態も明らかになりました。消費の主役は、自分のこだわりを追求する彼女たちへとシフトしているのでしょう。
知識の競い合いから「共有」へ!変化するオタクの価値観
SHIBUYA109ラボの長田麻衣所長は、「多くの女性はヲタ活を前向きな自己表現として楽しんでいる」と分析します。その愛情表現は独自のトレンドを生み出しており、例えば推しの誕生日にグッズで部屋を埋め尽くす「祭壇」作りが代表的です。ここで興味深いのは、祭壇をSNSに投稿する際、自分の顔を隠す女性が多い点です。
これは「自分よりも、推しの尊さ(崇高で尊いこと)を最優先に伝えたい」という謙虚なファン心理の表れだといえます。自分を美しく見せることよりも、対象の魅力を最大化して共有することに重きを置く姿勢は、現代の「推し文化」を象徴する美しいマナーの一つとして、SNSでも共感を呼んでいるようです。
博報堂生活総合研究所の十河瑠璃研究員は、この変化の背景に社会構造の変容を指摘します。生涯未婚率の上昇など、従来の家族観に縛られない生き方が広まる中で、推しへの愛情が人生を支える大きな柱となっているのです。こうした変化に伴い、オタク同士の関係性もこれまでの形とは大きく異なってきています。
かつてのオタクといえば、所有するグッズの数や知識の深さを競い合い、ヒエラルキーを作る傾向がありました。しかし現在は、好きという感情を通じて周囲を巻き込み、楽しさを分かち合うスタイルが主流です。自分一人の世界に閉じこもるのではなく、他者と繋がるためのハブとして「好き」が機能しています。
こうした、等身大で楽しむオタクの日常を描いた漫画「となりの『つづ井さん』」が2019年に大ヒットしたことも、今の価値観を裏付けています。私自身、編集者としてこの流れを歓迎したいと感じます。何かを全力で愛し、それを糧に日々を輝かせる彼女たちの姿は、これからの時代の幸福の一つの形ではないでしょうか。
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