福岡の街角で長年愛されてきた「片山写真館」が、2019年09月に惜しまれつつもその歴史に幕を下ろしました。100年を超える月日を刻んできた大名のレトロな建物が消えゆく寂しさを抱えるなか、その精神を受け継ぐ特別な展覧会が開催されています。福岡県立美術館にて2020年01月26日まで行われているコレクション展「山口睦男と福岡の美術家たち」は、まさに写真文化の灯火を感じさせる珠玉のイベントといえるでしょう。
本展の主役である山口睦男氏は、伝説的な写真家・片山攝三氏に師事した人物です。片山氏は志賀直哉や坂本繁二郎といった文化人の肖像を生涯で150人も手がけた巨匠であり、その愛弟子である山口氏もまた、師の背中を追うように福岡の芸術家たちの姿を記録し続けました。SNSでは「巨匠たちの眼差しに圧倒される」「モノクロ写真の深みがすごい」といった感動の声が広がっており、時代を超えて響く表現の力に注目が集まっています。
キャンバスの裏側に隠された、芸術家たちの人間味あふれる一瞬
展示室の入り口で来場者を迎えるのは、野見山暁治氏による大作「朝」です。その圧倒的なスケール感に驚かされるとともに、隣に掲げられた野見山氏本人の穏やかなポートレートが、見る者の心を優しく解きほぐしてくれるでしょう。肖像写真、いわゆる「ポートレート」とは、単なる人物記録ではなく、被写体の内面や人生の深みを一枚の静止画に凝縮する芸術形式を指します。モノクロームの世界が、彼らの歩んできた長い歴史を静かに語りかけてきます。
会場には片山攝三氏が撮影した8点を筆頭に、山口氏が捉えた総勢38名にのぼる美術家たちの肖像が並びます。青木寿氏や宇治山哲平氏といった洋画家、さらには小田部泰久氏や冨永朝堂氏といった彫刻家たちの力強い作品と、彼ら自身の肖像が隣り合わせで展示される構成は見事です。作品から放たれる熱い情熱と、カメラを見つめる画家の素顔が共鳴し、まるで創作者たちの息遣いが展示室全体に満ちているかのような錯覚を覚えます。
さらに毎週土曜日の14時からは、学芸員によるギャラリートークも実施されています。私も拝聴しましたが、師弟の系譜や芸術家同士の意外な交流など、写真の背景にあるドラマを知ることで、鑑賞体験がより一層深いものとなりました。写真館という場所が消えても、そこで磨かれた「人を写す技術」はこうして今も私たちに感動を与えてくれます。作品と人が織りなす物語を、ぜひこの機会に肌で感じてみてください。
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