福岡市中央区平尾の閑静な住宅街。洗練されたマンションが立ち並ぶ中、ふと足を止めさせる情緒豊かな木造建築が姿を現します。2019年12月12日現在、築80年を超えるというこの古民家に惚れ込み、約15年前に店を構えたのが「食と酒なかむた」の店主・中牟田太仁さんです。
歴史を重ねた柱や梁が醸し出す温もりは、都会の喧騒を忘れさせてくれる唯一無二のスパイスと言えるでしょう。店主は「建て替えの話もあるけれど、この雰囲気が好きなんだ」と穏やかに微笑みます。SNS上でも「おばあちゃんの家に帰ってきたような安心感がある」と、その佇まいに魅了されるファンが後を絶ちません。
五感で愛でる、野菜が主役の旬彩コース
お品書きは、5,300円と7,300円(いずれも税別)のコース2種のみ。前菜からデザートまで、8枚から9枚の皿が物語を紡ぐように供されます。中牟田さんが特に情熱を注ぐのが、季節の移ろいを最も雄弁に語る野菜たちです。「魚はもちろん、野菜こそが一番季節を感じられる」という言葉通り、一皿一皿に旬の息吹が宿っています。
晩秋のコースでは、カキと栗という意外な組み合わせを白あえで表現。濃厚な甘みと爽やかな酸味が絶妙に調和し、食通たちを唸らせます。さらに、カブやサトイモ、彩り豊かな金時ニンジン、そして博多の冬には欠かせない「かつお菜」などが盛り込まれた皿は、まるで一幅の絵画のような美しさです。
徹底した「作りたて」へのこだわりと料理人の矜持
中牟田さんは、父と弟も料理人という料理一家に育ちました。29歳で独立して以来、たった一人で厨房のすべてを担い続けています。肉料理では、希少な牛ランプ肉を絶妙な火入れで提供。知人特製の「しょうゆもろみ(醤油を絞る前の発酵熟成した状態)」をベースにしたタレが、肉の旨味をさらに深く引き立てます。
特筆すべきは、食事の締めくくりに対する真摯な姿勢です。多くのお店が効率を重視する中、こちらでは客の進み具合を見てから土鍋で米を炊き、味噌を溶き始めます。当たり前のこととして「最後の一皿まで作りたてを出す」という流儀を貫く姿には、プロとしての深い愛と誇りを感じずにはいられません。
お土産としても人気が高い自家製めんたいこは、他の飲食店からも熱烈なラブコールを受けるほどの名品です。こうした細部に至るまでの手仕事こそが、食の激戦区・福岡で長く愛され続ける理由なのでしょう。古き良き空間で、一期一会の味に浸る。そんな贅沢な時間を、ぜひ大切な人と過ごしていただきたい名店です。
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