2019年も残すところあとわずかとなり、出版界の一年を締めくくる年間ベストセラーが日本出版販売より発表されました。2018年11月25日から2019年11月23日までの集計期間において、頂点に輝いたのは樹木希林さんの著書『一切なりゆき』です。唯一無二の存在感を放った名女優が遺した珠玉の言葉たちは、令和という新しい時代の幕開けに、多くの日本人の心へ深く浸透していきました。
SNSでは「希林さんの言葉に救われた」「生きる勇気をもらえる」といった感動の声が溢れ、社会現象とも言える大きな反響を呼んでいます。また、3位にも『樹木希林120の遺言』がランクインしており、彼女の人生観に対する関心の高さが伺えるでしょう。飾らない言葉で本質を突く希林さんのスタイルは、情報過多な現代社会において、私たちが本当に大切にすべき指標を示してくれているように感じます。
実用性と知的好奇心がキーワード
ビジネスや実用書の分野では、前田裕二さんの『メモの魔力』が若者を中心に絶大な支持を集めました。本書で提唱される「ファクト(事実)から抽象化し、転用する」という思考法は、単なる記録術を超えた知的生産の武器として注目されています。専門用語で言えば、具体的な出来事から本質を抜き出す「抽象化」の重要性を説いた点が、キャリア形成に悩む層にヒットした要因だと言えるでしょう。
さらに『FACTFULNESS』のヒットは、私たちが抱く「世界は悪くなっている」という思い込みを、データに基づいて是正する機会を与えてくれました。客観的な数値や事実、いわゆるエビデンスを重視する傾向は、今後の知的スタンダードになっていくに違いありません。世の中に溢れる真偽不明な情報に惑わされず、正しく世界を理解しようとする読者の真摯な姿勢が、この順位に反映されているのではないでしょうか。
一方で、子供たちの圧倒的な支持を集めたのが『おしりたんてい』シリーズです。複数の巻がランクインする快挙を成し遂げており、親子で楽しめる読書体験が定番化しています。また『世界一美味しい手抜きごはん』のように、時短や効率を求めつつも生活の質を落とさない「賢い選択」を助ける書籍も人気を博しました。現代人の多忙なライフスタイルに寄り添った本が選ばれるのは、当然の流れかもしれません。
このように2019年の読書シーンを振り返ると、個人の生き方を見つめ直す哲学的な視点と、即戦力となる実用的な知識の両輪が求められた一年だったと推察されます。個人的には、樹木希林さんの「なりゆき」に身を任せる潔さと、自ら道を切り拓くビジネス書の熱量が共存している点に、現代社会の面白さを感じます。新しい年を迎える前に、これらの話題作を手に取って、自分なりの感性を磨いてみてはいかがでしょうか。
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