サッカー界に新たな歴史が刻まれました。2020年1月14日、東京五輪のアジア最終予選を兼ねたU23アジア選手権において、前日本代表監督の西野朗氏が率いる開催国タイ代表が、見事に初のベスト8進出を決めたのです。1次リーグ最終戦で強豪イラクと1対1で引き分け、見事A組2位でクオリファイされました。
試合終了のホイッスルが響いた瞬間、会場のラジャマンガラ競技場は地元の若い選手たちと日本人指揮官を称える大歓声に包まれています。SNS上でも「西野マジックがタイでも炸裂した!」「歴史的な快挙に胸が熱くなる」といった、ファンからの興奮冷めやらぬお祝いコメントが溢れかえりました。
この試合では、審判の判定を映像でサポートするVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の裁定により、タイが先制のPKを獲得して幸先の良いスタートを切ります。しかし、後半に同点へ追いつかれてからは猛攻を凌ぐ苦しい展開が続き、西野監督も「最後は目をつぶっていた」と試合後に苦笑いで本音を明かしていました。
それでもピンチを耐え抜き、悲願の切符を掴んだ指揮官は、ピッチへと歩みを進めて選手一人ひとりと熱い抱擁を交わしています。記者会見の場に拍手で迎えられると、タイ語で感謝を意味する「コップンカー」という言葉とともに両手を合わせる挨拶を披露し、現地メディアの心を一瞬で掴み取りました。
西野監督は現在、日本の森保一監督と同様に、フル代表であるA代表の指揮官も兼任しています。しかし、タイのサッカー界は選手層の薄さが深刻な課題です。監督は「ピラミッド型ではなく筒のような構造で、日本のように3軍や4軍まで選手が揃っているわけではない」と、独特のジェスチャーを交えて表現されました。
そんな厳しい環境を嘆きつつも、名将の表情にはどこか挑戦を愉しんでいるような輝きが見られます。今大会のタイ代表は、ボールを保持する「ポゼッション」を高めながらピッチを広く使い、スピード感溢れる攻撃を展開するスタイルが特徴で、守備の脆さを補って余りある魅力的なサッカーを披露しているのです。
連戦による疲労を考慮し、イラク戦では主戦FWら7人を入れ替えて前線に固定のFWを置かない「ゼロトップ」という大胆な戦術を敢行しました。かつて2018年のワールドカップロシア大会で日本代表を率い、世界を驚かせた西野監督ならではの勝負師としての博才が、この大一番でも見事に開花したと言えます。
筆者は、この西野監督の飽くなき挑戦精神と、異国の地でゼロから文化を築き上げる手腕に深い敬意を表します。自らの哲学を押し付けるのではなく、タイの選手たちが持つポテンシャルを最大限に引き出す柔軟な姿勢こそ、私たちがビジネスや日常生活のマネジメントにおいても大いに見習うべき点ではないでしょうか。
東京五輪への出場権が得られる上位3チームの座まで、あとわずか2勝というところまで迫りました。若々しいチームと共に、タイサッカー界の白紙のページへ新たな「歴史」を書き加えようとする64歳の指揮官の挑戦は、これからも世界中のサッカーファンの視線を引きつけて離さないでしょう。
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