半導体製造装置メーカーであるニューフレアテクノロジーの買収を巡り、激しい株式公開買い付け、いわゆるTOB合戦が繰り広げられました。結果は東芝の勝利に終わりましたが、対抗馬として名乗りを上げていたHOYAの「引き際の鮮やかさ」が市場で大きな話題を呼んでいます。価格の吊り上げ競争に加わることなく、あっさりと撤退を決めた同社に対して、SNSでは「引き際が美しすぎる」「これぞ本物の投資規律だ」といった称賛の声が相次いでいるのです。
東芝が2019年11月に1株1万1900円でのTOBを発表したのに対し、HOYAは1万2900円という高値の対抗案を提示しました。しかし、東芝機械などが東芝への売却を決めたことで、東芝側の買収が成立することになります。通常であれば、さらに価格を上乗せして対抗したくなるところでしょう。それにもかかわらず、HOYAの鈴木洋最高経営責任者は、今回の結果について非常にさばさばとした様子で受け止めているのが印象的です。
同社が価格を引き上げなかった理由は、提示した買収額が約4年もの歳月をかけて緻密に計算された限界値だったからです。この冷静な判断の背景には、同社が20年以上も守り続けている「SVA(株主付加価値)」という独自の経営哲学が存在します。これは、株主から集めた資金にかかるコスト(資本コスト)を計算に入れ、それを上回る利益を生み出せているかを測る指標です。つまり、企業価値を本当に高められるかを見極める厳格なモノサシなのです。
徹底されたニッチトップ戦略と驚異の投資効率
このSVAという基準を軸に、HOYAは特定の狭い市場で圧倒的なシェアを握る「ニッチトップ戦略」を推進しています。世界シェアの半分以上を確保できる分野へ集中的に投資するスタイルであり、今回のニューフレアテクノロジーも、半導体製造に使われる特殊な装置で世界首位を走る企業でした。自社のガラス製品事業との相乗効果が期待されていたからこそ長年買収を検討してきたわけですが、基準を超える無理な深追いは絶対にしないのが同社の流儀です。
私は、このHOYAの姿勢こそが現代の日本企業が見習うべき究極の選択と集中であると考えます。多くの企業が「規模の拡大」や「メンツ」にとらわれて高値掴みをしてしまう中、自社のモノサシを信じて毅然と撤退する姿は実に見事です。価値を生まない事業からは冷徹なまでに撤退し、成長分野へ資金を投じる。この仕組みが四半期ごとに徹底されているからこそ、同社は上場する全製造業の中でトップクラスの投資効率を誇っているのでしょう。
実際に同社の業績は非常に好調で、2020年3月期も連結純利益が前期比で9%増となり、3期連続で過去最高益を更新する見通しです。SNSでも「ニューフレアの次はどこを狙うのか」と、同社の次なる一手に投資家たちの熱い視線が注がれています。時代の変化に合わせてカメラ用レンズなどの衰退事業をどう入れ替えていくのか、HOYAのブレない投資戦略から今後も目が離せません。
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