東南アジアのテック界で注目を集める巨大ユニコーン、インドネシア発のスタートアップ企業「ゴジェック」が、その革新的なビジネスモデルで急成長を遂げています。ゴジェックは、創業者のナディム・マカリム氏が提唱するように、単なる配車サービス企業にとどまらず、人々の日常生活に深く根差した「スーパーアプリ」としての地位を確立しているのです。その特徴は、主に二輪車(バイク)を活用した配車や宅配サービスにあり、2015年のアプリサービス開始以来、インドネシアの「国民的サービス」へと成長しました。
ゴジェックのビジネスの根幹は、まず配車サービスで大勢の消費者を獲得し、その後、より収益性の高い宅配や金融サービスへと利用者を巧みに誘導し、収益を上げるという戦略にあります。ナディム氏によると、年間の総取扱高90億ドル(約1兆円)のうち、配車サービスが占める割合は全体の25%未満であり、実は金融や外食宅配の分野がそれ以上の規模を誇っているとのことです。特に外食宅配の取扱高は20億ドルにも達し、「東南アジア最大の宅配サービス」としての地位を確立しています。
この多角化戦略の推進に伴い、電子マネーの利用範囲を2018年から一般の店舗にも拡大するなど、配車以外のサービスが次々と拡充されてきました。その結果、2018年の総取扱高は、わずか2年間で13.5倍という驚異的な急成長を見せています。ナディム氏は、中国などと比較して、宅配や金融サービスの人口普及率にはまだ大きな伸びしろがあると判断しており、当面は目先の黒字化よりも、さらなる成長に向けた積極的な投資を最優先する方針を示しています。これは、将来的な大きなリターンを見据えた、まさにスタートアップらしい戦略だと言えるでしょう。
成長を加速させるため、戦略的パートナーとの協業も進められています。その筆頭が株主でもある米グーグルとの提携です。ゴジェックは、グーグルの持つ高度な地図技術を基盤に、人工知能(AI)や機械学習といった最先端のテクノロジーを導入し、配車や宅配の「経路決定における効率を10倍に高めた」と説明しています。また、グーグルから5億ドルもの出資を受けていることも明らかになりました。さらに、三菱商事との連携についても「詳細はまだ明かせない」としつつも、「たくさんのことを話し合っている」と、新たな協業への期待感を示しています。
ゴジェックは、配車サービス単体では収益はトントン、つまり「薄利多売」にしかならない、という現実的な想定を「基本シナリオ」としてビジネスを構築しています。ナディム氏は、この基本シナリオの下でも上場時には十分に利益を確保できると見通しています。さらに、配車サービスからも利益が生まれる「楽観的シナリオ」が実現すれば、全体の利益は急増することになります。ナディム氏が「単に上場するだけの会社ではなく、10~20年という単位でビジネスが続く会社をつくっている」と強調するように、その視線は遥か未来を見据えていることが分かります。
デカコーンとしての競争戦略と挑戦
ゴジェックは、配車や宅配アプリの利用者を抱える運転手200万人、電子マネーが使える商店30万店という圧倒的なネットワークをインドネシアで築き上げています。米グーグル、中国のテンセントや京東集団(JDドットコム)などに加え、日本の三菱商事も出資する同社は、米CBインサイツによれば企業価値評価額が100億ドル(約1.1兆円)に上り、これは世界でもわずか18社しかない未上場の大型企業「デカコーン」の一角を占めます。この企業価値は、市場がゴジェックの将来性にどれほど期待しているかを物語っていると言えるでしょう。
しかし、東南アジア市場での競争は激しさを増しています。特にインドネシア以外の東南アジア地域では、ソフトバンクグループやトヨタ自動車などが出資するライバルのグラブが先行しており、グラブが東南アジア8カ国に進出しているのに対し、ゴジェックは5カ国に留まっています。また、フィリピンでは配車サービスの許可が下りておらず、本格的な事業開始には至っていません。資金調達額でもグラブが上回る状況に対し、ナディム氏は「いくら資金調達するかではなく、どうお金を使うかが重要だ」と反論し、「ゴジェックは最も魅力的な投資先であり続ける」と、自社の効率的な資金運用能力と成長性をアピールしています。
さらに、各国規制当局の動向も無視できない懸念材料です。インドネシアでは、運転手保護と既存のタクシーとの競争条件を公平にするため、2020年5月から最低運賃制度が導入され予見込みです。これにより、配車の運賃や宅配の手数料が上昇し、消費者離れが起きる可能性も指摘されています。一部では運転手の最低賃金導入を目指す動きもあり、このような規制の進展次第では、事業環境が急変するリスクもはらんでいます。ゴジェックの成長は、技術革新だけでなく、各国の市場環境や規制の変化に柔軟に対応できるかにかかっていると言えるでしょう。
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