最近、自動車にまつわるニュースで「CASE(ケース)」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。これは、これからのクルマの在り方を根本から変える4つの技術革新の頭文字を繋げた造語です。20世紀初頭にT型フォードが登場して以来、自動車は大衆の移動手段として君臨してきましたが、今まさに「100年に1度」とも言われる激動の時代を迎えています。SNS上でも「これからの車はスマホのようになるのか」といった驚きの声が広がっており、私たちのライフスタイルそのものが変わろうとしています。
まず「C」はConnected、つまり「つながる車」を指します。車内に通信端末を搭載し、常時インターネットに接続することで、渋滞情報や車両の状態をリアルタイムでやり取りする技術です。続く「A」はAutonomousで、人間ではなくシステムが操縦を担う「自動運転」を意味します。さらに「S」のShared & Servicesは、車を所有せずに共同利用するシェアリングサービスを指し、「E」はElectric、すなわちガソリンではなく電気を動力源とする「電動化」を表しています。これらは個別の進化ではなく、相互に深く結びついているのが特徴です。
巨大IT企業の参入と1100兆円市場の争奪戦
これまでは莫大な設備投資が必要だった自動車産業ですが、スマートフォンの普及により半導体やセンサーの価格が下がったことで、異業種からの参入が相次いでいます。米グーグルの関連会社であるウェイモは、2018年12月5日から自動運転による有料配車サービスを開始しました。また、ネット通販大手のアマゾンも自動運転スタートアップへの出資を決めています。移動にまつわる市場規模は世界で1100兆円とも言われており、IT企業が持つ人工知能(AI)などのソフトウェア技術が、勝負を分ける鍵となるでしょう。
こうした流れを受け、日産自動車がウェイモと提携したり、トヨタ自動車がソフトバンクと手を組んだりと、かつての敵味方を超えた「呉越同舟」の連携が加速しています。私自身の見解としても、ハードウェアとしての車を作る力だけでなく、いかに便利なサービスを付随させるかという「体験」の提供が、今後の企業の生存戦略になると確信しています。もはや自動車メーカーは、単なる製造業から、移動をサポートする「モビリティ・カンパニー」への脱皮を強く迫られている状況にあると言えるはずです。
環境と安全の課題を解決する切り札としての期待
CASEがこれほど注目される背景には、長年の課題であった「環境負荷」と「交通事故」への対策があります。2015年9月に発覚したディーゼル車の排ガス不正問題をきっかけに、欧州メーカーは一気に電気自動車(EV)へのシフトを鮮明にしました。二酸化炭素の排出を抑えるEVは、地球温暖化対策の切り札として政府も強力に後押ししています。また、若者を中心に「所有から利用へ」と価値観が変化しており、シェアリングが普及すれば、都市部の深刻な渋滞も解消されるかもしれません。
安全面においても、自動運転技術は大きな期待を集めています。現在でも自動ブレーキの普及によって事故率が低下しているというデータがありますが、将来的にシステムがすべての運転を担えば、ヒューマンエラーによる悲惨な事故をゼロに近づけられる可能性があります。運転から解放された車内は、食事や仕事、あるいは娯楽を楽しむ新しい居住空間へと進化するでしょう。移動時間が「拘束される時間」から「自由に活用できる時間」へと変わることは、私たちの人生をより豊かにしてくれるに違いありません。
実用化に向けた壁と社会的な合意形成の必要性
夢のような未来が描かれる一方で、2019年7月22日現在の状況では、解決すべき課題も山積みです。EVにおいては、リチウムイオン電池のコスト削減や寿命の改善に加え、どこでも充電できるインフラの整備、さらには使い終わった電池のリサイクル体制を整える必要があります。また、自動運転についても技術はまだ発展途上の段階です。万が一事故が起きた際の責任の所在や、「システムならどこまでミスが許されるのか」という倫理的な議論は、技術開発以上に難しい問題となることが予想されます。
「人間より事故率が低ければ良い」という論理だけでは、社会全体の納得を得ることは難しいでしょう。新しい技術をどれほどの信頼度で受け入れるかという社会的な合意を、私たちは丁寧に進めていかなければなりません。それでも、CASEがもたらす利便性と安全性は、私たちの社会をより良い方向へ導くエンジンになるはずです。変革の真っ只中にいる私たちは、この新しい波を不安がるのではなく、いかに賢く使いこなしていくかを考えるべきではないでしょうか。今後の自動車業界の動向から、片時も目が離せません。
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