化学業界の巨頭、旭化成が発表した2019年4月1日から2019年6月30日までの連結営業利益は、前年同期に比べて約1割減となる440億円程度にとどまったようです。この期間での減益は実に3年ぶりのことであり、市場には少なからず衝撃が走っています。背景にあるのは、激化する米中貿易摩擦に伴う中国景気の減速。SNS上でも「大手化学メーカーですら中国の影響を避けられないのか」といった、グローバル経済の先行きを不安視する声が散見されます。
今回の業績低迷の主な要因は、同社の柱であるマテリアル事業の苦戦にあります。特に中国市場において、消費者の購買意欲が冷え込んだことが大きな痛手となりました。自動車に欠かせない高機能樹脂や、燃費性能を左右する低燃費タイヤ向けの合成ゴムといった高付加価値製品の需要が急減したのです。さらに、スマートフォン向けのカメラモジュール用電子部品も出荷が伸び悩み、デジタル家電分野の勢いにもブレーキがかかった形となっています。
一方で、市場を驚かせたのは旭化成の持つ「事業の多角化」という強みでしょう。マテリアル事業が苦戦を強いられる中で、世界シェア首位を誇るリチウムイオン電池用のセパレーターは、欧州の電気自動車(EV)シフトの波に乗って極めて堅調に推移しています。ここで言うセパレーターとは、電池のプラス極とマイナス極を絶縁し、ショートを防ぎながらイオンだけを通す重要な膜のことです。この技術力が、同社の底力を支える大きな武器となりました。
加えて、国内の住宅事業やヘルスケア事業が業績の下支えとして見事な役割を果たしています。ブランド力の高い戸建て住宅「ヘーベルハウス」は、リフォーム需要も含めて非常に安定した利益を叩き出しました。また、2012年に買収した米国の子会社が展開する救急救命機器も好調です。特に、着用するだけで心肺停止時の電気ショックを自動で行うライフベストのような革新的な機器が、米国市場を中心に急速に普及している点は注目に値します。
私は今回の決算内容から、旭化成が単なる「素材メーカー」から脱皮し、社会課題を解決する「複合企業」へと進化している姿を感じました。一つの事業が沈んでも他がカバーする体制は、激動の時代において極めて健全な姿と言えます。2019年8月2日に予定されている決算発表では、通期の見通しは維持される見込みですが、逆風を跳ね返すための次なる一手、例えばEV向け投資の加速や医療分野のさらなる深耕に、投資家たちの熱い視線が注がれるでしょう。
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