現代中国映画界の巨匠として世界的な注目を集めるジャ・ジャンクー監督。その長編10作目となる待望の最新作『帰れない二人』が、いよいよ2019年09月06日に公開を迎えました。前作からさらにスケールアップした本作は、変わりゆく時代の波に翻弄されながらも、己の信念を貫こうとする男女の17年にわたる歳月を圧倒的な熱量で描き出しています。
本作の原題は「江湖児女」といいます。ここで使われている「江湖(こうこ)」という言葉は、中国の武侠小説などでよく耳にする専門用語で、単なる場所を指すのではありません。本来は「河川や湖」を意味しますが、転じて「国家の法が届かない、アウトローたちが独自の仁義やルールで生きる裏社会」を象徴しています。つまり、宿命を背負った男と女の物語であることを示唆しているのです。
物語の始まりは2001年の山西省大同です。地元のヤクザ者として顔が利くビンと、彼を献身的に支える恋人のチャオ。二人の平穏な日常は、敵対組織による襲撃という非情な事件によって突如として崩れ去ります。愛する人を守るため、チャオはとっさに銃を手に取り発砲してしまいました。この決断が、その後の二人の運命を決定づける大きな分岐点となっていくのでしょう。
SNSでも話題沸騰!「侠気」を貫くヒロインの強さと時代の変遷
チャオは銃の所持を認めず、ビンの身代わりとなって5年間の服役生活を送ることになります。SNS上では、この彼女の自己犠牲的な愛の形に「あまりにも切ない」「これこそが真の『侠気(おとこぎ)』だ」といった感動の声が数多く寄せられています。出所した彼女が目にしたのは、かつての威光を失い、別の女性と新たな生活を始めているビンの姿でした。信じていた絆が指の間からこぼれ落ちる瞬間の描写は、観る者の胸を締め付けます。
特筆すべきは、2001年から2018年という長い月日の流れを、監督が克明に記録している点です。三峡ダム建設によって沈みゆく街や、近代化の荒波に飲み込まれる地方都市の風景は、単なる背景以上の意味を持っています。変わり果てていく故郷と、変わることのできない人間の感情。その対比が、本作に深い哲学的な余韻を与えているといっても過言ではありません。映像の質感からも、失われた時代への哀愁が漂っています。
私自身の視点から言わせていただければ、この映画は単なる犯罪ドラマではありません。かつて「江湖」に生きていたはずの男が社会に順応し、逆に堅気だったはずの女が「江湖」の精神を体現していく逆転現象こそが、本作の真の醍醐味だと感じます。情愛よりも重い「義理」を重んじるチャオの生き様は、打算的な現代社会において、どこか高潔で美しくさえ映るのです。彼女の瞳に宿る覚悟を、ぜひスクリーンで見届けてください。
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