2019年6月14日、NTT(日本電信電話)の澤田純社長は、世界デジタルサミットにおいて、次世代の通信インフラの核となる「IOWN(アイオン)」と呼ばれる革新的な新構想を発表しました。この構想は、ネットワークから端末に至るまで、情報処理のすべてを「光」でまかなうことを目指すもので、現行の通信技術の限界を突破し、世界のエレクトロニクス産業にゲームチェンジをもたらす可能性を秘めています。
現在、世界的に導入が進む次世代通信規格「5G」は、通信路の超高速化を実現しますが、その先の技術についての議論はまだ十分に進んでいません。澤田社長は、たとえ5Gが普及しても、その後に待ち受けるデータ処理のボトルネック、すなわちデータ処理の遅延が大きな問題になると指摘しています。例えば、自動運転車のようなリアルタイム性が求められる技術では、データ処理に十数秒もかかってしまうことが致命的となるのです。IOWN構想は、通信速度だけでなく、情報処理基盤全体の能力を底上げし、この課題を根本から解決しようとするものです。
この実現に向けた重要な一歩として、NTTの研究所は2019年4月に世界初となる光技術を使ったチップの開発に成功しました。この光半導体では、従来の電子(エレクトロニクス)の代わりに光子(フォトン)がチップ内を飛び交います。これにより、電気を使う半導体で避けられなかった発熱を抑え、かつ従来の100倍という驚異的な電力効率を実現できる見込みです。この革新的な技術を基盤に、NTTは2024年から2025年ごろの仕様固めを目指し、IOWN構想の具体化を推進する予定でしょう。
💻オール光が実現する未来:低消費電力とリアルタイム性
オール光の情報処理基盤が完成すれば、世界はエレクトロニクス中心の時代から大きく転換し、低消費電力、低遅延(ていちえん)、超高速というメリットが生まれます。これにより、チップから機器の製造、そして開発エコシステム全体を変革する可能性を秘めているのです。想像してみてください。現在、電子回路で動いている機器が、将来的に光半導体、光サーバー、光パソコンといった製品に置き換わっていく姿を。これは、単なる通信技術の進化ではなく、産業構造そのものの変革と言えるでしょう。この基盤がなければ、高度なリアルタイム性を追求する自動運転や、IoT(アイオーティー:Internet of Things、あらゆるモノがインターネットにつながる)といった次世代のサービスは、真の意味で実現できないはずです。
この構想は、海外に後れを取っていると言われる日本のエレクトロニクスや通信産業が復活を果たす大きなきっかけになり得ると、私は考えます。NTTは光技術においては世界最先端に位置していますが、製造メーカーではないため、今後は日本国内だけでなく米国などの世界中の企業と協業し、新たなエコシステムを構築していく方針のようです。
🌐仮想社会「デジタルツインコンピューティング」が描くセカンドソサエティー
IOWN構想の核となるもう一つの新しい概念が、「デジタルツインコンピューティング」です。これは、かつての仮想空間でのアバター(分身)サービスの、まさに近代版と言えるでしょう。仮想空間上に自分自身の精緻な分身を再現し、その分身同士が情報を交換し合ったり、機械やモノとデータをやり取りしたりする未来像です。オール光による情報処理のリアルタイム性が飛躍的に向上することで、現実と寸分違わない精緻なシミュレーションが可能になり、仮想空間上にセカンドソサエティー(第二の社会)が構築されていくことになります。
しかし、こうした新しい社会が生まれる前に、解決すべき課題も存在しています。澤田社長は、新社会の中で生まれる知財(知的財産)の扱い、そして仮想空間内での犯罪などをどのように整理していくかについて、社会科学の研究者などにも呼びかけ、立ち上がり前から議論を深めていきたいという考えを示しています。技術の発展と同時に、社会規範の整備も進めるというNTTの姿勢は、非常に先見性があると言えるでしょう。
💡SNSの反響と本格導入の展望
NTTによるIOWN構想の発表は、SNS上でも大きな反響を呼びました。「光半導体の電力効率100倍はインパクトがすごい」「日本の光技術で巻き返しを図れるか」といった期待の声が多く聞かれ、「デジタルツインでどんなことができるのか楽しみ」と、新しいサービスへの関心も高まっているようです。まさに「未来のインフラ」として、多くの技術者やビジネスパーソンが注目していることがうかがえます。
IOWN構想の本格導入は2030年代になる見込みですが、限定されたサービスであれば、2025年までに仕様が固まった直後から登場するでしょう。例えば、遠隔地へ臨場感あふれる試合映像などを送るデジタルスタジアムのようなサービスは、比較的早い時期に実現すると考えられています。さらに、2030年代から2040年代にかけて実現が期待される量子通信(量子情報そのものを伝送する、極めて安全性の高い通信)の時代を見据えて、IOWN構想はオール光通信を必須とする量子通信時代への基盤準備という意味合いも持っているのです。NTTが描くこの壮大な光のネットワークは、日本の技術が世界に再び貢献し、私たちの未来の社会生活を一変させる大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。

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