カタルーニャ文学の最高傑作として世界中で愛され続けている名著、マルセー・ルドゥレダの『ダイヤモンド広場』が、待望の新訳となって岩波文庫から登場しました。2019年9月21日現在、バルセロナを象徴するグラシア街にあるこの広場は、多くの文学ファンが訪れる聖地のような場所となっています。かつて45年前に出版された旧訳は、フランス語を経由した「重訳(じゅうやく)」という、元の言語とは別の言語を介した翻訳でしたが、今回はカタルーニャ語からの直接的な翻訳が実現したのです。
「重訳」とは、原書の言語(今回はカタルーニャ語)を直接訳すのではなく、一度別の言語に訳された版を元に翻訳する手法を指しますが、直訳になったことで著者の本来の息遣いや繊細なニュアンスがより鮮明に伝わってきます。物語の舞台となるのは、ガウディの建築物が立ち並ぶ美しいバルセロナの街角です。主人公のナタリアという女性が歩む波乱に満ちた恋の軌跡、そしてスペイン内戦という過酷な時代の荒波に飲み込まれていく人々の姿が、圧倒的なリアリティをもって描き出されていきます。
SNS上では、この新訳の登場に対して「重訳ではなく直訳で読める贅沢さを噛みしめたい」「ナタリアの視点を通したバルセロナの描写に引き込まれる」といった熱狂的な反響が相次いでいます。本作の最大の魅力は、まるで隣で語りかけられているような軽妙な会話劇と、建物や小道具の一つひとつに至るまで徹底された緻密な描写にあります。こうした細部へのこだわりが、読者を一瞬にして20世紀半ばのスペインへとタイムスリップさせてくれるのでしょう。
訳者を務めたのはカタルーニャ語研究の第一人者である田澤耕氏であり、その筆致はまさに血の通った言葉として私たちの胸に響きます。一介の市民であるナタリアの私的な生活が、戦争という大きな歴史のうねりと交差する様子は、平和を享受する現代の私たちにも深い示唆を与えてくれます。岩波文庫という手軽なサイズで、780円という価格でこの重厚な体験ができるのは、本好きにとってこれ以上ない喜びと言えるはずです。
私自身の見解を述べさせていただくと、文学とは単なるストーリーの追体験ではなく、その土地の「匂い」や「風」を感じるための装置であるべきだと考えています。本作はまさにバルセロナの空気を封じ込めたタイムカプセルのような存在です。政治的な混乱が続くスペインの歴史を背景にしながらも、個人のささやかな幸せを丁寧にすくい上げるルドゥレダの視線には、深い慈愛と強靭な生命力が宿っており、現代を生きる人々にも勇気を与えてくれるでしょう。
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