2019年9月9日に列島を駆け抜けた台風15号は、各地に甚大な停電被害をもたらしました。特に千葉県を中心としたインフラの遮断は、私たちの食卓を支える畜産や酪農の現場に深刻な打撃を与えています。発生から2週間が経過しようとしている2019年9月23日現在でも、産業界の完全復活にはまだ遠い道のりが続いているのが実情です。
酪農の現場では、停電によって搾乳機や冷却設備が停止し、デリケートな乳牛たちが体調を崩す事態が相次ぎました。千葉県内の生乳出荷量はようやく8割程度まで持ち直したものの、一度損なわれた牛の健康状態や設備の損壊を元通りにするのは容易ではありません。この影響で、雪印メグミルクや森永乳業といった大手メーカーも、関東圏での出荷量を制限せざるを得ない状況に追い込まれています。
SNS上では「スーパーの牛乳棚がずっと空っぽで驚いた」「千葉の酪農家さんの苦労を思うと胸が痛む」といった、供給不安への困惑と生産者への同情の声が溢れています。こうした消費者の不安を裏付けるように、鶏卵の価格も急騰中です。鶏舎の換気システムが止まったことで鶏の供給能力が低下し、2019年9月20日時点の取引価格は台風直前と比較して約2割も上昇してしまいました。
小売現場の悲鳴も切実です。イオンリテールの担当者によれば、牛乳やヨーグルト、卵といった日々の食卓に欠かせない商品の入荷が不安定なままです。さらに「幸水」や「豊水」といった旬を迎えていた梨の落下被害も深刻で、10月以降はニンジンやネギといった根菜類の不足も懸念されています。自然の猛威が、秋の味覚を直撃している現状には、一消費者としても非常に心が痛みます。
産業の心臓部も停止。日本製鉄と中食産業が直面する供給網の危機
被害は食品だけにとどまりません。千葉県君津市にある日本製鉄の君津製鉄所では、強風によって巨大な煙突が倒壊するという衝撃的な事故が発生しました。これにより、鉄を精製する中心的な工程である「製鋼(せいこう)」の一部がストップしています。製鋼とは、溶かした鉄から不純物を取り除き、用途に合わせた成分調整を行う、いわば鉄造りの要となるプロセスです。
この設備停止により、世界的に高いシェアを誇るタイヤ用補強材「スチールコード」の原料供給に暗雲が立ち込めています。復旧には数カ月を要する見込みであり、同社は北海道などの他拠点での代替生産を急いでいます。しかし、特定の場所でしか作れない高品質な部材の不足は、自動車産業をはじめとする日本の製造業全体のサプライチェーンを揺るがしかねない大きなリスクといえるでしょう。
私たちの生活に最も身近なコンビニ弁当の世界でも、苦境は続いています。セブン-イレブン向けの製造を担うわらべや日洋ホールディングスでは、袖ケ浦市の工場が2019年9月17日に再開したものの、稼働率は平時の半分以下です。道路の寸断や自宅の被災により、現場を支える多くのパート従業員が出勤できないためです。機械が直っても「人の手」が足りなければ、産業は回らないという現実を突きつけられます。
今回の災害を通じて、日本のインフラと供給網がいかに脆弱であるかが露呈しました。代替輸送や他拠点でのカバーといった企業の自助努力には限界があります。被害を受けた生産者や企業が、一日も早く元の日常を取り戻せるよう、社会全体での継続的な支援と、災害に強い強靭な電力ネットワークの構築が今こそ求められているのではないでしょうか。私も一刻も早い復興を心より願って止みません。
コメント