世界中で熱狂を巻き起こしている「eスポーツ」という言葉をご存じでしょうか。コンピューターゲームをスポーツ競技として捉えるこの文化は、今や高額な賞金を稼ぐプロゲーマーという職業を誕生させ、子どもたちの憧れの的となっています。しかし、その華やかなイメージの裏側には、想像を絶するほど厳しく険しい現実が待ち受けているのです。
2019年09月30日現在、プロとして最前線で戦い続ける「あばだんご」こと河村裕太さん(26歳)の日常は、世間が抱くプロのイメージとは少し異なるかもしれません。彼は2019年08月中旬、東京都墨田区で開催された人気格闘ゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズ(スマブラ)」の国内屈指の大会で見事に優勝を飾りました。43万人もの視聴者が熱狂したこの大会ですが、なんと優勝賞金は「ゼロ」だったのです。
海外では10代の少年が数億円を手にするといった夢のあるニュースが飛び交いますが、日本国内ではスポンサー事情や運営形態の違いから、賞金だけで生活を維持するのは至難の業といえます。SNS上では「これだけの腕前があっても無報酬なのか」「夢があるようで現実はシビアすぎる」といった驚きや同情の声が絶えず寄せられており、業界の構造的な課題が浮き彫りになっています。
動画配信とセルフプロデュースが支えるプロの生活
では、賞金に頼らずどうやって生計を立てているのでしょうか。河村さんの主な収入源は、YouTubeでの動画配信による広告収入や視聴者からの「投げ銭」です。投げ銭とは、ライブ配信中にファンがオンライン上で寄付を送るシステムを指し、クリエイターを直接支援する手段として定着しています。彼は対戦中も視聴者のコメントに丁寧に応答し、ファンとの絆を深める努力を惜しみません。
プロとしての活動は、単にゲームが上手いだけでは成立しないのが現状です。河村さんはファンを増やすために髪を染め、写真映えを意識して筋トレで体重を10キロ増やすなど、徹底した自己演出を行っています。所属チームからの給与やイベント出演料を合わせ、ようやく一般的な会社員と同程度の年収を確保できているとのことですが、ここまで徹底できるのは一握りの存在でしょう。
国立大学の大学院で情報工学を学んだエリートである彼が、安定した就職ではなくプロの道を選んだ背景には、「好きなことで生きたい」という強い情熱がありました。しかし、反射神経が衰える30歳を一つの区切りと考え、引退後のコーチ業や運営への転身を見据えている姿からは、一過性のブームに流されない冷静なプロ意識と、この職業の短命ゆえの切実さが伝わってきます。
急成長する市場と「ゲーム依存」への社会的責任
日本のeスポーツ市場は、2017年時点で5億円未満と世界に比べて遅れをとっていますが、世界市場は2022年までに倍増する勢いで成長しています。しかし、光が強くなれば影も濃くなるものです。世界保健機関(WHO)が「ゲーム障害(ゲーム依存)」を新たな疾患として認定したことは、業界にとって無視できない大きな警鐘となりました。
私は、プロゲーマーという職業が「単なる遊び」ではなく、自己管理と戦略が問われる「知的なアスリート」として認知されるべきだと考えています。一方で、賞金が出にくい国内環境の整備や、依存症問題への誠実な取り組みがなければ、健全な発展は望めません。河村さんのような先駆者が道を切り拓く今、私たち社会もゲームを文化としてどう育てるか問われているのではないでしょうか。
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