2019年秋の情景を詠む、茨木和生選の俳句12選|季節の移ろいと暮らしの彩り

2019年10月05日、俳人・茨木和生氏によって選ばれた珠玉の句々が発表されました。秋の深まりとともに、私たちの周囲には豊かな自然や生活の機微が溢れています。今回の選評には、旬の味覚から静かな夜のひとときまで、読者の心に深く染み入る作品が勢揃いしました。SNSでも「日常の何気ない景色がこれほど美しく切り取られるのか」と、感嘆の声が上がっています。

まず目を引くのは、尾崎槙雄氏が詠んだ「藻屑蟹多き年なる秋まつり」という一句です。モクズガニとは、川に生息するハサミに毛が生えたカニのことで、秋に産卵のため海へ下る習性があります。豊漁の年に開催される秋祭りの活気が、この蟹の存在を通して生き生きと伝わってきますね。自然の恵みに対する感謝の念が、祭りの喧騒と共に聞こえてくるようです。

続いて、読書欲を掻き立てる妙中正氏の句も印象的です。「本棚に収まらぬ本秋灯」とあるように、秋の夜長に読書に耽る様子が目に浮かびます。「秋灯(あきともし)」とは、秋の夜にともす明かりを指す季語で、少し肌寒くなった夜に温かな光の下で本を読む贅沢な時間を表現しています。溢れるほどの本は、知的好奇心の現れであり、秋という季節の知的な側面を象徴しているでしょう。

一方で、自然の厳しさを鋭く捉えたのが大畑光弘氏の作品です。吊るされた鳥籠にまで蛇が忍び寄る光景は、静寂の中にある緊迫感を描き出しています。また、小林千寿氏の句にある「旧き町の名」を記した信号機に小鳥が飛来する様子からは、都市化が進む中でも失われない歴史の香りと、変わらぬ自然の営みが交錯する情景を感じ取ることができるはずです。

二谷久美子氏が描く「色鳥や少女の作るオムライス」は、彩り豊かな小鳥たちと、キッチンで一生懸命に料理をする少女の姿が重なり、非常に微笑ましいコントラストを生んでいます。秋の柔らかな光が食卓を照らしているような、平和で温かな日常のワンシーンと言えます。このような何気ない家庭の風景こそが、後世に残したい日本の宝物であると私は確信しています。

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秋の夜長と巡る季節の感慨

季節の行事に心を寄せる作品も多く見られました。里村直氏の「いささかの地酒に酔ひぬ敬老日」では、2019年9月16日の敬老の日に、穏やかにお酒を楽しむ高齢者の姿が浮かびます。また、吉田郁代氏が詠んだ「重陽の夜の銀の皿銀の匙」は、9月9日の重陽の節句(菊の節句)を洋風の設えで祝うモダンな感性が光ります。伝統を現代の生活に調和させる知恵が見事です。

旅情を誘うのは、中村重雄氏の湯治場での一句です。山深くで落鮎(産卵のために川を下る鮎)を釣る昼下がりは、喧騒を離れた最高の贅沢でしょう。広田祝世氏が詠んだ、鮎の季節が終わり店を閉める茶屋の光景には、去り行く季節への寂寥感が漂います。終わりがあるからこそ、私たちは巡り来る季節の一瞬一瞬を、より愛おしく感じることができるのではないでしょうか。

山村昌宏氏の句にある「良夜(りょうや)」とは、陰暦8月15日の十五夜、つまり中秋の名月の夜を指します。2019年9月13日がその日にあたりましたが、堂塔の影が重なり合う静謐な夜の美しさは、日本人の美意識の極致と言えるでしょう。濱田武寿氏が捉えた「毒茸(どくきのこ)」の完璧な円形もまた、自然界が持つ不可思議な造形美を私たちに突きつけてきます。

最後に紹介する谷口澄氏の句は、夏風邪で伏せりながら余生に思いを馳せるという、人生の円熟味を感じさせる内容です。体調を崩した時にふと訪れる内省の時間は、決して後ろ向きなものではなく、これまでの歩みを確かめる大切な儀式なのかもしれません。これらの俳句を通じて、私たちは2019年の秋という時間を、より深く、多角的に味わうことができるのです。

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