今、日本の地方創生における「フロントライン(最前線)」として、宮崎県新富町が熱い視線を浴びています。人口わずか1万7000人のこの町を牽引するのは、2017年4月に設立された地域商社「こゆ財団」です。彼らは単に特産品を売る組織ではありません。都市部の人材を呼び込み、地方での起業体験を通じて劇的な成長を促す「挑戦の聖地」を作り上げているのです。
2019年7月には、東京都内で「宮崎ローカルベンチャースクール」の最終発表会が開催されました。これは、地方でのビジネスに興味を持つ首都圏の若者たちが、5回にわたる講座でプランを練り上げるプログラムです。受講料はなんと無料。SNSでも「地方で挑戦するハードルが下がった」「チャンスの塊だ」と、その型破りなスタイルが大きな反響を呼んでいます。
ブルーオーシャンを切り拓くIT流のスピード経営
こゆ財団の代表理事を務めるのは、米シリコンバレーでマーケティングに携わった経歴を持つ斎藤潤一氏です。同氏は「ライバルが少ない地方こそ、未開拓の市場である『ブルーオーシャン』だ」と断言します。既存の観光協会を解散させ、意思決定の速いIT企業流の経営を導入したことで、町全体の空気は一変しました。
このスピード感に惚れ込んだのは若者だけではありません。世界的な大企業であるユニリーバ・ジャパンも、2019年7月に新富町と連携協定を締結しました。驚くべきは、サッカースタジアムの命名権(ネーミングライツ)の対価が「現金」ではなく、同社による「人材育成のノウハウ提供」である点です。これは従来の地方自治体の常識を覆す、極めて先進的な試みと言えるでしょう。
1粒1000円のライチが象徴する「稼ぐ力」の再投資
こゆ財団の「稼ぐ力」を象徴するのが、1粒1000円という驚きの価格でブランド化に成功した国産ライチです。糖度15度以上の厳選された逸品は、2019年には1800ケースを出荷するヒット商品となりました。こうした事業や、前年比約5倍の19億円にまで跳ね上がった「ふるさと納税」の受託収益が、さらなる街づくりへの軍資金となっています。
得られた利益は、古民家を再生した高級宿「茶心」の開業や、農業ベンチャーの誘致に充てられています。補助金に頼り切るのではなく、自らビジネスを回して教育やインフラに再投資するサイクルは、まさにシリコンバレーそのものです。地方には何もないと嘆くのではなく、埋もれた資源に「付加価値」という魔法をかける彼らの手法は、日本中の自治体が手本にすべきモデルでしょう。
「人材」こそが最大の新特産品になる未来
私が特に注目したいのは、こゆ財団が「人材」を最大の特産品と捉えている点です。2019年4月からはANAホールディングスとも教育プログラムで連携しており、高校生から社会人までが新富町を舞台に学びを深めています。リカレント教育(社会人の学び直し)の拠点として、五感を刺激する地方の環境を活用する視点は、非常に合理的かつ魅力的です。
「日本一チャレンジしやすい町」を目指す新富町には、今日も東京から若き起業家たちが移住してきています。パパイア栽培に挑む元化学メーカー社員や、地元の伝統菓子を再発明するUターン青年。彼らの熱量が、かつての静かな農業町を、日本で最もエキサイティングな「起業家の聖地」へと変貌させつつあります。この勢いは、2019年の地方創生ニュースにおいて最大の衝撃となるでしょう。
コメント