「ココイチ」の愛称で親しまれ、ギネス世界記録にも認定された世界最大のカレーチェーン「カレーハウスCoCo壱番屋」。その舵取りを担う葛原守社長は、調理師という異色の経歴を持つリーダーです。2019年3月に就任した葛原氏は、海外事業の最前線で戦ってきた経験から、組織を一つにするための普遍的な真理を提唱されています。
葛原氏が理想とするのは、創業者の宗次徳二氏が体現していた「従業員やお客様を大切にする一期一会の精神」です。1992年に入社した当時、社長だった宗次氏のストイックな姿勢に感銘を受けたといいます。もっとも、葛原氏自身は自分を「そこまでストイックにはなれない」と冷静に分析し、等身大の努力を積み重ねる道を選びました。
かつて広島市内のホテルで5年間、洋食のコックとして修業を積んでいた葛原氏にとって、仕事は「見て盗むもの」という職人の世界が当たり前でした。この経験が、後に壱番屋での急速な成長を支える土台となったのでしょう。現場の空気を肌で感じ、自ら手を動かす職人魂こそが、彼のリーダーシップの源流にあるのかもしれません。
当初は自分の店を持つことを夢見て、独立支援制度である「ブルームシステム」に応募した葛原氏ですが、27歳の時に大きな転換点を迎えます。独立か本部での勤務かを選択する際、社会をより広く学びたいという情熱からスーパーバイザー(SV)の道を選択しました。この決断が、後に彼を世界へと羽ばたかせるきっかけとなったのです。
未知の領域・中国進出への挑戦と挫折
2003年12月、葛原氏は中国事業の責任者として大きな賭けに出ます。驚くべきことに、現地での味の調査は一切行わなかったそうです。「日本カレー」という文化そのものを伝えるという強い信念があったからでしょう。しかし、2004年9月に上海で1号店をオープンさせた直後は、予想に反して厳しい現実が待ち受けていました。
雨の日には客足が30人ほどに落ち込むこともあり、葛原氏は誰もいない客席で一人悩み抜いたといいます。ここで彼が気づいたのは、現地の人々にとって自分たちは「外国人」であるという客観的な視点でした。SNSでも「現地の文化に寄り添う大切さ」が話題になりますが、まさにその壁に直面した瞬間だったと言えます。
そこで葛原氏は、ターゲットを「流行に敏感な女性」に絞り、2号店をデートにも使えるカフェスタイルへと刷新しました。さらに、視覚的に訴える「フォトジェニック」なオムレツカレーを開発したことで、客層は劇的に変化します。1号店では月間3000人だった来客数が、2号店では1万人を超えるという驚異的なV字回復を遂げました。
言葉の壁を超える「相手を好きになる」マネジメント
組織づくりにおいて葛原氏が貫いたのは、日本のココイチ流である「全員野球」のスタイルでした。役割分担が明確な中国の商習慣に対し、自らが率先してトイレ掃除や皿洗いを行う姿を見せることで、従業員の意識を変えていったのです。言葉以上に、背中で語るリーダーの姿は万国共通で信頼を勝ち取る手段なのでしょう。
葛原氏は現在も社員に対し、「まず相手を好きになること」の大切さを説き続けています。誕生日を祝い、家族のように接することで築かれた絆は、かつての部下たちが今や豊かに暮らしている姿を見る喜びへと繋がっています。テクニックではない、血の通った人間関係こそが、グローバル展開を成功させる真の鍵だと言えるのではないでしょうか。
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