東京証券取引所などが2019年6月26日に公表した2018年度の株式分布状況調査の結果から、日本株に対する外国人投資家の保有比率が3年ぶりに低下し、約29.1%となったことが明らかになりました。これは前年度から1.2ポイントの減少であり、2012年度以来の低い水準に後退しています。これまで、外国人投資家は日本企業の業績向上や「コーポレート・ガバナンス」の改善への期待を背景に、日本市場での存在感を高めてきましたが、今回の結果は、その勢いにブレーキがかかり、頭打ちの傾向が鮮明になってきたことを示唆していると言えるでしょう。
この保有比率の落ち込みの背景には、外国人投資家による日本株の大量売却が存在します。2018年度は、外国人投資家が日本株を5.6兆円も「売り越し」ており、これは平成の30年間において最大の売越額を記録しました。世界的な貿易摩擦、特に米中間の摩擦の激化や、世界経済の先行きに対する懸念から、リスクを回避し、日本株の持ち高を減らす動きが際立っていたと考えられます。業種別に見ても、保有比率が減少したのは全33業種のうち25業種にのぼり、金属製品や情報・通信業などでの減少が目立っています。
一方で、医薬品が5.9ポイント増、精密機器が2.3ポイント増となるなど、一部の業種では外国人投資家の保有比率が上昇している点も見逃せません。これは、世界的な景気不安の中でも成長が見込める特定の分野や、高い技術力を持つ企業への選別投資が行われていることを示しているのではないでしょうか。外国人投資家は、短期間での利益追求だけでなく、企業の透明性や持続的な成長力といった「コーポレート・ガバナンス」の要素を重視する傾向が強いため、特定の企業価値を評価した上での動きと推察されます。
注目すべきトレンド:個人投資家の台頭とアベノミクスの功罪
今回の調査では、もう一つ重要なトレンドが浮かび上がっています。それは、個人株主の保有比率が3年ぶりに上昇し、17.2%となったことです。これは、ソフトバンクのような大型新規株式公開(IPO)によって個人株主の数が増加したことに加え、「NISA(少額投資非課税制度)」の普及を通じて、個人投資家の裾野が拡大したことが背景にあると分析できます。若年層や資産形成層が投資を始めるきっかけが増えたことは、日本経済にとって非常に前向きなニュースだと捉えるべきでしょう。
また、平成の30年間という長期的な視点で見ると、外国人株主の保有比率は約6倍にまで拡大しており、今回の低下は一時的なものと見ることもできます。特に「アベノミクス」が始まった2012年以降、日本企業の「稼ぐ力」の強化や、上場企業に求められる行動規範である「コーポレート・ガバナンス・コード」の導入による透明性の向上は、海外からの評価を高め、2013年度には保有比率が30%台の大台に乗るなど、日本株への信頼が大きく高まっていました。
しかし、今回の結果は、企業統治の改善だけでは、世界経済の変動に対するリスクヘッジにはなり得ないことを示唆しています。投資家は常に利益を求め、国際情勢や景気動向によって、資金の引き上げを躊躇しないものです。この傾向を食い止めるには、企業側が単に体裁を整えるだけでなく、本質的な企業価値の向上と、世界に通用する確固たる競争力を身につけていくことが、今後一層重要になってくるでしょう。
SNS上では、「やっぱり景気の先行き不安が大きいよね」「日本株は海外の景気動向に左右されすぎだ」といった、世界経済の不透明感に対する懸念の声が多く見受けられました。一方で、「個人投資家が増えているのは良い傾向。NISAをもっと活用すべきだ」「医薬品や精密機器への集中投資は、成長分野への選別が進んでいる証拠」といった、今後の市場に対する期待や分析的な意見も散見されました。今回の調査結果は、日本株市場が、世界的なリスクと、国内の個人投資家層の拡大という、二つの大きな波に晒されている現状を浮き彫りにしたと言えるでしょう。
用語解説
コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance:企業統治):企業が株主をはじめ、顧客、従業員、地域社会といったステークホルダー(利害関係者)の立場を踏まえ、透明で公正な意思決定を行い、企業の価値を高めていくための仕組みです。不正や不祥事を防ぎ、持続的な成長を実現することが目的となります。
売り越し:株式市場において、ある期間内に株式の「売却額」が「購入額」を上回ること、または売却された株数が購入された株数を上回る状態を指します。外国人投資家が日本株を「売り越し」たということは、日本株から資金を引き揚げたことを意味します。
NISA(ニーサ):正式名称は「少額投資非課税制度」です。個人が投資のために開設した口座(NISA口座)内で得た株式や投資信託などの利益や配当金が、一定の範囲内で非課税になる制度です。個人投資家の資産形成を後押しするために導入されました。
アベノミクス:2012年12月から始まった安倍晋三政権が掲げた経済政策の総称です。「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の「三本の矢」を柱とし、デフレからの脱却と経済成長を目指しました。
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