2019年10月13日に幕を閉じた体操の世界選手権において、日本男子チームは団体総合で2年連続の銅メダルという結果に終わりました。個人種目でも種目別平行棒で萱和磨選手が手にした銅メダル1つに留まり、かつての黄金時代を知るファンにとっては少し寂しい光景だったかもしれません。今大会で最も鮮烈な印象を刻んだのは、圧倒的な強さを見せつけたロシア勢の躍進ではないでしょうか。
ロシアはリオデジャネイロ五輪の銀メダルメンバーが主軸として健在であり、個人総合を制したニキータ・ナゴルニー選手を中心に盤石の体制を築いています。かつて内村航平選手を筆頭に日本が世界をリードしていた時代、追う立場だった彼らが今や完全に立場を逆転させたのです。東京五輪での金メダル奪還を狙うのであれば、これまでの戦略や代表選考のあり方を根本から見直す時期が来ていると言えるでしょう。
SNS上では「ロシアの安定感が凄すぎる」「日本の美しい体操は世界でどう評価されているのか」といった不安と期待が入り混じった声が数多く寄せられています。日本代表の各選手も、技の難易度を示す「Dスコア(難度点)」を確実に底上げしており、この1年間の凄まじい成長は誰の目にも明らかです。しかし、勝敗を分かつ決定打となったのは、昨年同様に演技の完成度を評価する「Eスコア(実施点)」の差でした。
審判の眼が求める「美しさ」の変遷と国内選考の課題
現在の世界的な採点傾向は、技をいかに正確に、そしてミスなくやり遂げるかに重きが置かれています。がっちりとした体格のナゴルニー選手のように、細かな動作まで完璧に制御すれば、たとえ従来の「美しい線」とは異なっても高得点が導き出されるのです。ここで問題となるのが、世界で高く評価される演技が、必ずしも日本の国内大会で同じように評価されないという、評価基準の「ねじれ」が生じている点にあります。
この現状を象徴したのが、チーム最年少18歳の橋本大輝選手が予選のあん馬で見せた圧巻のパフォーマンスです。彼は世界選手権で全体3位となる8.883点という高いEスコアを叩き出しましたが、実は2019年6月の全日本種目別選手権で同様の演技をした際は8.5点に留まっていました。日本の審判が極端な高得点を避ける傾向にあることは、選手たちが無理に技の難易度を上げようとして自滅するリスクを招きかねません。
「美しい体操」という日本独自の理想を追求するだけでは、もはやロシアや中国といった強豪には太刀打ちできないフェーズに突入しています。世界が今、どのような体操を「正解」としているのかを冷徹に見極め、それを国内の採点や選考基準に即座に反映させる柔軟さが必要です。伝統の継承と現代的な適応、この両輪が揃わなければ、ライバルたちの背中は遠ざかる一方であると私は確信しています。
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