大学受験の風景が、いま劇的な変化の時を迎えています。2019年11月06日、教育界の巨頭である駿河台学園(駿台)と河合塾が、人工知能(AI)を本格的に導入することを相次いで発表しました。かつては広い教室に大勢の生徒が集まり、カリスマ講師の熱弁に耳を傾けるのが予備校の象徴でしたが、これからはタブレットやPCを通じた「AI先生」による個別指導がその主役になろうとしています。
駿台は、学習者の「つまずきの原因」を瞬時に特定するスタートアップ、アタマプラスと2019年09月に業務提携を結びました。特筆すべきは、AIが単なる補助ツールに留まらない点です。彼らは日本データサイエンス研究所とも協力し、これまでAIが苦手とされてきた難関国立大学の2次試験対策にも対応できる高度なシステムの開発に乗り出しています。熟練講師の指導ノウハウをAIに学習させるという試みは、教育の質を根底から変える可能性を秘めています。
少子化と講師の高齢化が加速させる予備校の「DX」
なぜ、伝統ある予備校がここまでAIに舵を切るのでしょうか。その背景には、18歳人口の減少という厳しい現実があります。2019年には大学進学率が53.7%に達した一方で、浪人生の数は2000年比で約3割も減少しました。さらに、予備校界を支えてきた講師陣の高齢化も深刻な課題です。若手の優秀な人材確保が困難になる中で、効率的かつ質の高い教育を継続するためには、テクノロジーによるビジネスモデルの転換が不可欠だったと言えるでしょう。
河合塾も2019年12月から、独自の学習プラットフォーム「河合塾One」をスタートさせます。これは、産業技術総合研究所が開発したAIに名物講師の知見を詰め込んだもので、スマホ一台で自分専用のカリキュラムが組める画期的なサービスです。2020年04月からは理科や古文など科目も拡大される予定で、場所を選ばない学習スタイルが加速します。SNSでは「ついに予備校もAIか」「自宅でカリスマの指導が受けられるのは熱い」と、期待の声が広がっています。
編集者が見る「AI先生」が変える日本の教育格差
私は、このAI導入は単なる合理化ではなく「教育の民主化」であると考えます。これまでは都市部の校舎に通わなければ受けられなかった最高峰の指導が、AIを通じて全国どこにいても享受できるようになるからです。もちろん、講師が持つ独特の「熱量」や、生徒を鼓舞する「人間味」をAIが完全に代替するのは難しいかもしれません。しかし、基礎固めや弱点分析という地道な作業をAIが担うことで、人間はより情緒的なサポートに専念できるようになるはずです。
学習データが蓄積されるほど、AIはより賢く、より生徒一人ひとりに寄り添う存在へと進化していきます。駿台や河合塾が培ってきた「合格のメソッド」がデジタル化され、2021年度にはAIをメインに据えた新講座も登場する見込みです。人間とテクノロジーが融合し、受験生一人ひとりが最短ルートで夢を掴める時代が、すぐそこまで来ています。教育業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、まだ始まったばかりなのです。
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