古都・京都に冬の訪れを告げる風物詩といえば、南座で繰り広げられる「吉例顔見世興行」ではないでしょうか。2019年11月06日、この華やかな舞台に先立ち、出演する歌舞伎役者の名前を独特の書体で看板に記す「まねき書き」の様子が、京都市左京区の妙伝寺にて報道陣へ公開されました。
会場では、書家の井上玉清さんが長さ約1.8メートル、幅約30センチのヒノキ板に腰掛け、一筆一筆に魂を込める姿が見られました。今回特に注目を集めているのは、上方歌舞伎の第一人者である坂田藤十郎さんが、親子孫の三代で共演を果たすという記念すべき節目に立ち会えることでしょう。
使用される墨には日本酒が混ぜられており、これによって美しい光沢と粘り気が生まれるという伝統的な技法が用いられています。井上さんの手によって書き上げられた文字は、どれも力強く、それでいて温かみのある曲線を描いており、職人の卓越した技術が光る瞬間は見る者を圧倒する迫力に満ちていました。
ここで用いられる「勘亭流(かんていりゅう)」とは、江戸時代から歌舞伎の看板などに使われてきた特別な書体です。文字を太く、そして内側へ丸め込むように書くのが特徴で、これは「劇場に隙間がないほど客席が埋まるように」という、千客万来と商売繁盛への切実な願いが込められた縁起物なのです。
SNS上では「この文字を見ると、いよいよ京都に冬が来ると実感する」「三代共演の看板はぜひ現地で拝みたい」といった期待の声が続々と寄せられています。伝統を守り続ける職人の手仕事に対する敬意や、華やかな舞台を心待ちにするファンの熱量が、インターネット上でも大きな盛り上がりを見せているようです。
個人的には、単なる看板制作を超えた「祈り」の形がここにあると感じます。デジタル化が進む現代において、あえて手書きで、しかもお酒を混ぜた墨で書くという工程には、目に見えない粋な計らいが詰まっています。こうした細部へのこだわりこそが、歌舞伎という伝統芸能の厚みを支えているのでしょう。
2019年11月25日には、完成した看板が南座の正面に掲げられる「まねき上げ」が執り行われます。色鮮やかな定式幕とともに、この看板が京都の街並みに並ぶ光景は圧巻のはずです。2019年11月30日から12月26日まで開催される興行に向け、街全体が活気に包まれていくに違いありません。
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