1960年に発売されたたばこ「ハイライト」のパッケージを、皆さんは一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。鮮やかなブルーの背景に白い文字が映えるこの不朽のデザインを手がけたのは、戦後日本を代表するイラストレーターの和田誠さんです。2019年10月7日に83歳でこの世を去った彼の訃報を受け、SNS上では「和田さんの絵と一緒に育った」「あの優しいタッチがもう見られないなんて」と、世代を超えた多くのファンから惜別と感謝の声が溢れています。
和田さんが「ポスターを作る人になりたい」という明確な夢を抱いたのは、高校2年生という多感な時期のことだったといいます。その夢を現実のものとし、生涯を通じてブックデザインやポスター制作に情熱を注ぎ続けました。特に書籍の表紙や背表紙をデザインする「装丁(そうてい)」という仕事においては、本の顔ともいえる重要な役割を担っています。和田さんの描く線は驚くほど素朴でありながら、どこか子供のような自由さとおおらかさに満ち溢れていました。
彼の創作の原点は、幼少期の家庭環境に深く根ざしているのかもしれません。生前、和田さんが嬉しそうに披露してくださったのは、わずか4歳の時にわら半紙に描いたという貴重な絵でした。それらは母親の手によって丁寧に綴じられ、世界に一冊だけの絵本のようになっていたそうです。身近な大人に認められ、大切にされるという体験が、後の彼が放つ温かな作品世界を形作る土壌になったことは想像に難くありません。
一方で、和田誠という人物を語る上で欠かせないのが、絵と同じくらい、あるいはそれ以上に注がれた映画への深い情熱です。膨大な数の映画随筆を執筆しただけでなく、その知識と愛は1984年に公開された監督デビュー作「麻雀放浪記(まーじゃんほうろうき)」として見事に結実しました。この作品は戦後の混乱期を舞台にした勝負師たちの物語であり、白黒映画としての美学が極限まで追求されています。
多くの多才な表現者はどこか尖った印象を与えるものですが、和田さんの作品には常に「親しみやすさ」が同居していました。複雑なことをシンプルに伝える技術こそ、編集者である私たちが最も尊敬すべきプロの仕事だと感じさせられます。彼が去った今も、本棚に並ぶ装丁や名作映画の記憶の中に、その温かな眼差しは生き続けているでしょう。和田誠さんという唯一無二の個性が遺した文化的な価値は、今後も色あせることなく語り継がれていくに違いありません。
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