シャープは2019年11月07日、今期の業績予想を据え置くと発表し、周囲を驚かせました。パナソニックなどのライバル企業が下方修正を余儀なくされる厳しい市場環境にあって、同社は売上高2兆6500億円、営業利益1000億円という強気な計画を維持しています。この自信を支えているのが、主力のデバイス事業における回復の兆しです。
記者会見に臨んだ野村勝明副社長は、顧客動向の好転によりディスプレイやデバイス関連が大幅に持ち直すとの見通しを語りました。2020年3月期の目標達成に向けて、下期だけで売上高を上期より4000億円以上も積み増す計算ですが、その原動力となるのはやはり米アップル社の存在です。最新モデル「iPhone 11」の好調が、同社の背中を力強く押しています。
SNSでは「やはりシャープにはiPhoneが欠かせないのか」「復活の兆しが見えて嬉しい」といった期待の声が上がる一方で、「過去の二の舞にならないか」と懸念する意見も散見されます。かつてシャープは、特定の顧客に経営を左右される「アップル・ショック」を何度も経験してきました。2013年3月期には巨額の赤字を計上し、経営危機に陥った苦い記憶が今もなお鮮明に残っています。
「もろ刃の剣」に揺れる経営基盤
アップルとのビジネスは、巨大な利益をもたらす一方で、販売不振が直撃した際のリスクが極めて高いのが特徴です。2019年3月期も、新型iPhoneの失速によって鴻海精密工業の傘下入り後、初の減益を記録しました。さらに技術的な課題も浮上しています。現在、スマートフォン業界では「有機EL」と呼ばれる、自ら発光する素子を用いた次世代ディスプレイの採用が急速に進んでいます。
有機ELはバックライトが不要なため、薄型化や鮮やかな色彩表現が可能ですが、シャープが得意とするのは依然として従来の「液晶パネル」です。旗艦モデルで有機ELの採用が進めば、供給できるチャンスが失われるという構造的な不安を抱えています。一時は依存度を下げてきた同社ですが、足元のiPhone 11特需によって、再びアップル頼みの体質に逆戻りする皮肉な状況となっています。
こうした依存体質からの脱却を目指し、戴正呉会長兼社長が旗振り役となって進めているのが、独自の事業モデル構築です。特に力を入れているのが「8K(超高精細映像)」と「AIoT」という二つの柱です。AIoTとは、人工知能(AI)とモノをネットにつなぐ「IoT」を組み合わせた造語で、家電が学習して賢くなる未来の暮らしを提案するシャープ独自のビジョンを指しています。
しかし、現実の道のりは決して平坦ではありません。世界的なテレビ価格の下落が逆風となり、高付加価値を狙った8Kテレビの普及には時間がかかっています。国内市場においても、競合他社が注力する有機ELテレビに対して後手に回っている感は否めません。戴氏は社員に対し「成長力の強化が急務である」と激を飛ばしており、新しい中期経営計画に向けた危機感は相当なものです。
筆者の視点としては、現在のシャープは「短期的な利益」と「長期的な自立」の間で激しく葛藤しているように見えます。iPhone特需で得た資金を、いかに迅速に5Gや8Kといった次世代インフラへ投資できるかが鍵となるでしょう。アップルの動向に一喜一憂するフェーズを脱し、自らの技術で市場を創造できるか。2020年3月期は、その真価が問われる極めて重要な一年になりそうです。
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