新潟県長岡市に拠点を置き、屋根用金具の製造で国内トップシェアを誇るサカタ製作所が、驚きの新分野へ進出しました。同社は長岡技術科学大学の上村靖司教授とタッグを組み、これまでにない透明度と硬度を兼ね備えた「単結晶氷」を生成する装置を開発したのです。2019年11月02日現在、年内の本格生産開始に向けて準備が進められており、東京都内の料飲店を中心にこの究極の氷が提供される計画となっています。
SNS上では「屋根の金具メーカーが氷を作るなんて意外すぎる」「ウイスキーに入れたら消えてしまいそう」といった驚きと期待の声が広がっています。異業種からの挑戦は、単なる話題作りではなく、長年培ってきた「雪氷」への深い知見に基づいた真剣なプロジェクトです。同社は国際的な衛生管理基準であるHACCP(ハサップ)の取得も視野に入れており、食の安全面でも一切の妥協を許さない姿勢を見せています。
放射冷却の原理を応用した驚異の製氷テクノロジー
この装置の最大の特徴は、自然現象である「放射冷却」を再現している点にあります。放射冷却とは、雲のない夜間に地表の熱が宇宙へと逃げ出し、地面が急激に冷え込む現象のことです。通常の製氷機が全方向から一気に凍らせるのに対し、この装置は容器の上部から下部へ向かって一方向へじっくりと氷を成長させます。これにより、48時間という短期間で不純物や気泡が極めて少ない、約15センチ四方の美しい氷が誕生するのです。
専門的な視点で見ると、この氷は「単結晶」に近い状態を実現しています。一般的な氷は小さな結晶が集まった「多結晶」ですが、単結晶は原子の配列が規則正しく並んだ一つの大きな塊を指します。結晶の境界(粒界)がほとんど存在しないため、光の乱反射が抑えられ、水の中に入れると存在を忘れてしまうほどの透明度を誇ります。この圧倒的な美しさは、バーやレストランでの体験を格別なものに変えてくれるでしょう。
地域活性化と雪氷への探究心が結びつけた異色の挑戦
これまで高級店で重宝されてきた「純氷」は、72時間もの時間をかけて作られるのが一般的でした。しかし、今回の新装置は48時間でそれ以上の品質を目指せる可能性を秘めています。技術開発部長の小林準一氏は、さらなる透明度と硬度の向上に意欲を燃やしています。2020年春には量産化装置の完成を目指しており、新潟の豊かな水資源を付加価値の高い製品として発信することで、地域経済の活性化に貢献したいという熱い想いが込められています。
編集者としての私見ですが、本業である屋根金具の知見を「氷」という異なる形に昇華させたこの取り組みは、日本の製造業における多角化の理想的なモデルだと感じます。雪下ろしの事故防止を願う屋根金具への情熱が、氷の結晶構造への理解を深め、最終的に人々の喉を潤す至高の氷へと繋がったストーリーには胸を打たれます。技術の探究心は、ジャンルの垣根を超えて新しい価値を創造することを教えてくれているようです。
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