「テルマエ・ロマエ」などのヒット作で知られる漫画家のヤマザキマリさんが、2019年11月03日、地中海の要衝として知られるシチリア島の州都パレルモへの深い情熱を語りました。フィレンツェ留学時代に初めて足を踏み入れたその地は、彼女が事前に抱いていたあらゆるイメージを鮮やかに裏切るものだったそうです。SNS上では「ヤマザキさんの視点を通すと風景が立体的に見える」といった感銘の声が広がっています。
地理的な条件が歴史を形作り、その土地固有の顔を作り上げるという事実は、パレルモという街において顕著に現れています。ヤマザキさんは、イタリア人らしい情熱的なイメージとは異なる、忍耐強く謙虚な友人の性格を通じて、シチリアがイタリア本土とは一線を画す独特の文化圏であることを予感していました。しかし、実際に現地で目にした光景は、想像を絶するほど複雑で、一筋縄ではいかない多様性に満ちていたのです。
多層的な歴史が息づく「文明の交差点」の真実
パレルモの街を象徴するのは、紀元9世紀のイスラム支配時代に築かれた要塞を、後のノルマン民族が王宮へと改築した歴史的背景にあります。ここで注目すべきは、ビザンツ、イスラム、ノルマンという異なる文化が奇跡的な融合を遂げた「パラティーナ礼拝堂」の存在でしょう。この建造物は、まさに多様な文明が共生していた証拠であり、訪れる者に人知を超えた調和の美しさを提示してくれます。
礼拝堂内部には、キリスト教の聖書を題材にした黄金に輝くモザイク装飾が施されています。それと対照的に天井を見上げれば、イスラム建築の真骨頂である「ムカルナス」と呼ばれる蜂の巣状の彫り込み細工が広がっているのです。この異なる宗教的意匠が溶け合う様子は、後のルネッサンス精神の先駆けともいえる、異文化への「寛容」の精神を体現したフェデリーコ2世の時代を予感させるものといえます。
パレルモの街並みを歩けば、バロック様式の豪華な建物から第二次世界大戦の爪痕、さらには現代の社会問題であるアフリカ難民が描いた鮮やかな壁画までが混在しています。私は、こうした「正負の歴史」を隠さずさらけ出すパレルモの姿こそが、人間の生命力の逞しさを象徴していると感じてなりません。綺麗に整えられた観光地にはない、生々しい人間賛歌がそこには刻まれているのではないでしょうか。
ヤマザキさんは、パレルモを「太陽に焼かれ、深い皺が刻まれた寡黙な老人」に例えています。2019年11月03日現在も変わらぬその強烈で物悲しい佇まいは、効率や均質化を求める現代社会において、私たちが忘れかけている「異質なものを受け入れる強さ」を問いかけているようです。歴史の激流に揉まれながらも、多様性を内包し続けるこの街の美しさは、今後も多くの旅人を魅了し続けるに違いありません。
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