地域経済を支える金融の現場で、いま静かな熱狂を呼んでいる組織があります。それが島根県信用保証協会です。「信用保証制度」とは、中小企業が銀行から融資を受ける際、公的な保証人が付くことで資金調達をスムーズにする仕組みを指します。万が一、返済が滞った場合には協会が肩代わりをするため、本来は「裏方」の存在ですが、島根ではその枠を超えた独自の支援が展開されています。
島根県出雲市で鮮魚卸を営むマルエイ水産は、2016年ごろ、3期連続の赤字という崖っぷちに立たされていました。資金繰りは限界を迎え、短期の融資を継続することすら困難な状況だったのです。そんな絶望的な状況を変えたのは、当時の出雲支店長が放った「ハマ(漁港)に行ってこい」という一言でした。担当の加藤紗織さんは、地銀の担当者と共に早朝の大社港へと向かいました。
現場に足を運んだ加藤さんは、プロの目利きである永瀬社長に対し「なぜこの魚は高値なのか」と素朴な疑問をぶつけ続けました。この問いかけが、社長自身の固定観念を打ち破るきっかけとなったのです。加藤さんはまず、資金の出入りを可視化する「資金繰り表」の作成を支援しました。これは、企業の血液とも言える現金の流れを把握する極めて重要な作業であり、経営改善の第一歩として欠かせないプロセスです。
さらに支援は収益改善へと踏み込みます。加藤さんは消費者目線で「この鮮度ならもっと高く売れる」と社長の背中を押し、バイヤー向けの商品の撮り方や魅力を伝える工夫を共に考えました。2019年11月23日現在の報告によれば、この「膝詰め」の対話により、同社は2018年2月期に念願の黒字化を達成しました。従業員へボーナスを支給できた喜びを語る社長の姿は、多くのSNSユーザーからも感動を呼んでいます。
金融の枠を超えた「黒子」たちのプロ意識
島根県信用保証協会の強みは、その圧倒的な専門性にあります。常勤職員に占める中小企業診断士の割合は28%と全国トップクラスを誇ります。中小企業診断士とは、企業の成長戦略を策定し、経営課題を解決するコンサルティングの国家資格です。2019年11月23日時点で、同協会には21名もの診断士が在籍しており、組織ぐるみで企業の「生き残り」にコミットする体制が整っています。
特筆すべきは、これらの経営支援に一切の手数料を取らないという点です。「保証した資金が返せなくなったときこそ、寄り添うのが保証人の務め」という小野支店長の言葉には、金融機関のあるべき姿が凝縮されています。SNS上では「これこそが真のリレーションシップバンキングだ」という称賛の声が上がっています。これは、顧客との長期的・継続的な信頼関係を重視する金融手法を意味する言葉です。
私は、現代の金融機関にこそ、こうした「泥臭い現場主義」が必要だと強く確信しています。デジタルの時代だからこそ、現場の魚の匂いや経営者の不安に直接触れる「温度感」のある支援が、企業の再生を左右するのではないでしょうか。単に数字を追うだけの融資ではなく、共に汗を流すパートナーとしての姿勢こそが、衰退が懸念される地方経済を再び輝かせる唯一の鍵になると信じています。
金融機関が手数料ビジネスや証券業務に走るなか、地域密着を貫く島根のモデルは、全国の地方銀行や信用金庫にとって大きな道標となるでしょう。「融資をして終わり」という時代は、もう過去のものです。今後は、創業から再生までをトータルで支える「本業支援」の質が、金融機関自体の生き残りをも決めることになるはずです。地域に光を灯す島根の挑戦から、私たちは目を離すことができません。
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