2019年11月26日、台風19号をはじめとする記録的な豪雨が日本各地を襲い、多くの人々の暮らしが濁流に飲み込まれました。これまでの治水対策といえば、国や自治体による堤防整備が主流でしたが、今その常識が大きく変わろうとしています。特に注目を集めているのが、2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町での取り組みです。ここでは、行政の限界を待つのではなく、住民自らが川を守るために立ち上がっています。
真備町を流れる小田川では、当時、本流との合流地点付近で堤防が決壊し、尊い命が失われました。悲劇を繰り返さないため、2019年4月28日から始まったのが「樹林化防止踏みつけウォーク」です。毎月6日、最大で80名もの住民が集まり、河川敷の草木を足で踏み倒して回ります。この活動の狙いは、河川敷がうっそうとした森のように変化してしまう「樹林化」を防ぐことにあります。
河川敷に木が生い茂ることは、一見すると自然豊かな光景に思えるかもしれません。しかし、大雨で増水した際には、これらの樹木が「天然のダム」となって水の流れを遮り、水位を急上昇させてしまうリスクを孕んでいます。さらに、川の底を深くして水の容量を増やす「河道掘削」という工事を行う際にも、根深く張った木々が大きな障害となります。住民の片岡展弘さんは、約20年も放置された樹齢の木を指し、長年の危機感の象徴だと語ります。
時間と予算の壁を越える!「水位を低く保つ」住民参加型の知恵
治水の基本原則は、上流にダムを作って「流量を減らす」ことと、川幅を広げたり障害物を取り除いたりして「水位を低く保つ」ことの二段構えです。ダム建設には膨大な時間と予算が必要ですが、樹木の伐採や土砂の掘削は、比較的低コストで迅速に効果を発揮できる「次善の策」とされています。2019年11月現在、国も緊急対策として全国の河川でこれらを進めていますが、予算には限りがあり、すべての現場を網羅するのは容易ではありません。
SNSでは「行政だけに任せるのはもう限界」「自分たちの住む場所を自分たちで守る姿に勇気をもらう」といった共感の声が広がっています。真備町の住民グループは、さらに一歩踏み込んだアイデアとして、河川敷にミニゴルフ場を整備する構想を練っています。人が日常的に立ち入り、草を刈る環境を整えれば、自然と樹木の成長を抑制できるからです。こうした「市民参加型」の管理は、コスト削減にも直結する画期的なモデルといえます。
私は、この真備町方式こそが、これからの日本における防災の「最適解」になると確信しています。もちろん行政の責任は重大ですが、川を日常的に見守っている住民の目と、公的な整備が融合することで、初めて「隙のない防災」が完成するはずです。住民が削減に貢献した予算を、さらに難易度の高い土砂掘削へ回すよう提案する姿勢は、まさに賢明な市民の鏡と言えるでしょう。
2019年という激動の年、私たちは自然の猛威を前に無力感を感じることもありました。しかし、真備町の皆さんが一歩一歩、河川敷を踏みしめるその足跡は、これからの治水のあり方を力強く示しています。行政と住民が手を取り合い、理想的な協力関係を築くことで、氾濫に負けない強靭な街づくりが加速していくことを願ってやみません。
コメント