2019年11月22日、東南アジアの自動車市場に激震が走っています。「日本車王国」として知られるタイにおいて、英国発祥の老舗ブランド「MG(モーリス・ガレージ)」が凄まじい勢いでシェアを拡大しているのです。かつてはスポーツカーの代名詞だったMGですが、現在は中国の上海汽車集団(SAIC)の傘下に入り、地元の巨大財閥CPグループとの合弁事業としてタイ国内で確固たる地位を築きつつあります。
最新の統計によれば、2019年1月から9月におけるMGの市場シェアは2.5%に達しました。これは長年タイで親しまれてきたスズキの2.4%を上回る数字であり、参入からわずか数年で日本車メーカーの一角を崩したことになります。SNS上でも「街中で見かける回数が明らかに増えた」「デザインが欧州車のように洗練されている」といった声が相次いでおり、タイの若者を中心にそのブランドイメージが急速に浸透している様子が伺えます。
圧倒的なコストパフォーマンスと欧州仕込みのデザイン
MGの躍進を支えているのは、中国資本による低コスト生産と、英国譲りの高いデザイン性の融合です。例えば人気車種の「MG3」は、約51万9000バーツ(約180万円)からという、競合するマツダ車などと比較しても極めて戦略的な価格設定がなされています。消費者の間では「手が届きやすい価格なのに、安っぽさを感じさせないスタイルが魅力的だ」と評価されており、初めての1台にMGを選ぶ層が増えているようです。
また、タイの巨大財閥CPグループが持つ強力なネットワークも無視できません。同社は短期間でタイ全土に約100店舗もの販売網を整備しました。どんなに製品が良くても、アフターサービスへの不安があれば車は売れません。地場大手の看板を掲げることで、消費者の信頼を勝ち取った戦略は見事と言えるでしょう。2019年9月、景気減速の影響で日本車各社が苦戦を強いられるなか、MGが前年比7%増を記録した事実は、その底力を証明しています。
EVシフトとピックアップトラック投入で攻勢を強める
さらにMGは、タイ市場の約半分を占める「ピックアップトラック」市場にも、2019年8月に新型車を投入して真正面から挑んでいます。ここで言うピックアップトラックとは、荷台が露出した形状の貨客兼用車のことで、タイでは仕事からレジャーまで幅広く使われる国民車です。MGは他社を圧倒する車体サイズの大きさを武器に、年間2万台の販売を目指して「日本車一辺倒」の市場に新しい風を吹き込もうとしています。
時代の先を読む力も驚異的です。タイ政府が産業高度化のために「EV(電気自動車)」へのシフトを推進するなか、MGは2019年6月にいち早くEVの販売を開始しました。日産自動車の「リーフ」に比べて約4割も安価な設定は、市場に大きな衝撃を与えています。既に1000台を超える受注を獲得しており、家庭用充電器を無料で提供するなどの手厚いサポートも、新しい技術に敏感な層を惹きつける要因となっているのでしょう。
これまでのタイは、既存のガソリン車工場という巨大な資産を持つ日本車メーカーが圧倒的なシェアを誇ってきました。しかし、電気自動車への転換という時代の転換点において、しがらみのないMGのような新興勢力が主導権を握る可能性は十分にあります。2019年11月現在、タイの街並みを変えつつあるMGの動向は、日本車メーカーにとってこれまでにない脅威となるに違いありません。
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