2019年11月30日、来年に迫った東京五輪・パラリンピックへの期待が高まる一方で、私たちの夏の風物詩を揺るがす深刻な事態が浮き彫りになっています。2020年夏の大会期間中、1都3県の会場周辺を守るために必要な警備員は、なんと約1万4000人という膨大な数にのぼります。この巨大な需要を補うため、警備大手が全国から人員を集約させることで、地方のイベントや工事現場から「守り手」が消えてしまうという皮肉な現象が起きているのです。
SNS上では「五輪のせいで地元の花火がなくなるなんて悲しすぎる」「警備員さんの負担が大きすぎて心配」といった困惑や同情の声が相次いでいます。実際に埼玉県の上尾市では、2019年11月に入り、例年8月に開催していた「あげお花火大会」の2020年大会中止を決定しました。実行委員会は、警備員不足により来場者の安全を確保できないと苦渋の決断を明かしており、華やかな祭典の影で地方の伝統が危機に瀕しています。
有効求人倍率は驚異の7.9倍!「即戦力」を増やせない警備業界の壁
ここで、現在の異常な人手不足を示す数字を見てみましょう。厚生労働省の2019年10月の調査によれば、警備員を含む「保安の職業」の有効求人倍率は7.91倍に達しました。これは全職業平均の1.45倍や、人手不足が深刻な介護サービスの4.51倍をも大きく上回る突出した数字です。「有効求人倍率(ゆうこうきゅうじんばいりつ)」とは、求職者1人に対して何件の求人があるかを示す指標で、今や1人の警備員を約8社で奪い合っている計算になります。
なぜ急に人を増やせないのでしょうか。それは、警備業務には「法的研修」の壁があるからです。警備員として現場に立つには、原則として約30時間の専門研修を受けることが義務付けられており、イベントに合わせて臨時のアルバイトを即採用して配置することが非常に困難なのです。そのため、地方の協力会社までもが東京へ応援派遣されることになり、結果として「みよし市民納涼花火まつり」など、各地で30以上の行事が中止や日程変更を余儀なくされる事態となっています。
一編集者の視点:テクノロジーと「総力戦」で挑む、安全大国の試練
一メディア編集者としての私の主張は、この「警備員パニック」を単なる五輪の副作用と片付けるべきではないということです。セコムでは普段は事務や営業を担当する社員約1000人に警備員研修を受けさせるという、文字通りの「総力戦」で備えています。また、ALSOKは交通誘導の人数を3分の1に減らせる新システムの開発を急いでいます。こうした企業努力は、少子高齢化で働き手が減り続ける日本において、将来の社会インフラを維持するための重要な実験場になると言えるでしょう。
一方で、建設大手の鹿島が工事開始時期の見直しを検討するなど、五輪による経済への影響はイベントの枠を超えて広がっています。2019年11月30日の現在、私たちは「安全」というサービスの価値がどれほど高く、そして人手に頼り切っていたかを再認識させられています。五輪を成功させることはもちろん大切ですが、その代償として地方の活気が失われては本末転倒です。新技術の実用化や柔軟な働き方の提案など、この難局を日本経済の構造改革へのチャンスに変えられるかどうかが、今まさに問われています。
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