2019年11月14日、日本中を熱狂の渦に巻き込んだラグビーワールドカップが幕を閉じました。アイルランドやスコットランドといった世界の強豪を撃破し、史上初のベスト8進出を果たした日本代表の勇姿は、多くの人々の記憶に刻まれていることでしょう。倒れながらもボールをつなぐ「オフロードパス」や、密集でボールを奪う「ジャッカル」など、華やかなプレーが注目を集めましたが、その根底を支えていたのは基本プレーである「スクラム」に他なりません。
フォワード8人が一丸となってぶつかり合うスクラムは、一見地味に見えるかもしれませんが、試合の流れを左右する極めて重要な要素です。実はこの「スクラム」という言葉、ラグビーのフィールドを飛び出し、現代のビジネスシーン、特にシリコンバレーのテック企業においても日常的に使われていることをご存知でしょうか。ソフトウェア開発における最新の手法として、今や世界標準となっている「スクラム」は、チームが一体となって共通のゴールを目指すための画期的なフレームワークなのです。
これまでのソフトウェア開発では、最初に作成した仕様書を絶対的な指針とする手法が一般的でした。しかし、このやり方では途中で生じる矛盾やスケジュールの遅延に対応しきれないという課題が山積していたのです。そこで登場したのが、変化に対して柔軟かつ迅速に対応できるスクラムという手法でした。プロジェクトの進行中でも、必要に応じて要求事項を変更できるという柔軟な考え方が、スピード感を求められる現代ビジネスにおいて最大の武器となります。
シリコンバレーを席巻する手法のルーツは日本にあり
驚くべきことに、世界中のスタートアップが採用しているこの「スクラム」は、日本で産声を上げた概念なのです。一橋大学の野中郁次郎教授が、1986年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』で発表した論文がその起源とされています。野中教授は日米の組織を比較研究する中で、当時の日本メーカーが見せた自由度の高い開発プロセスを、ラグビーのスクラムに例えて紹介しました。各工程が緩やかに重なり合い、伸縮自在に進む様子は、まさにチームが一体となるラグビーそのものだったのです。
2015年の大会と比べ、2019年の日本代表が飛躍を遂げた要因の一つは「戦略の柔軟性」にあると分析されています。前大会では一度決めた戦略を貫く傾向がありましたが、今大会では対戦相手や状況に応じて、キックの多用やパス回しを瞬時に切り替えていました。ラグビーは試合中に監督が指示を出せないスポーツですから、選手たちが現場で意思疎通を図り、リアルタイムで判断を下す必要があります。この自律的な姿勢こそ、スクラム開発の本質なのです。
SNS上では「スクラムが日本発祥だなんて誇らしい」「ビジネスとスポーツの共通点に納得した」といった驚きと共感の声が広がっています。私自身も、目まぐるしく変化する現代において、固定概念に縛られず現場の判断を尊重するスクラムの考え方は、あらゆる組織に不可欠だと確信しています。シリコンバレーの起業家たちがスクラムを武器に爆発的な成長を遂げている今、日本企業もこの「逆輸入」された知恵を活かし、再びイノベーションの荒波を乗り越えていくべきではないでしょうか。
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