2019年10月01日より、消費税率の引き上げに伴う政府のポイント還元事業がスタートしました。わずか9カ月という期間限定の施策ではありますが、これは単なる消費の下支えにとどまりません。世界的な潮流から取り残されつつある日本の決済環境を、一気に塗り替えようとする国家的なプロジェクトと言えるでしょう。
日本は長らく「現金大国」と称されてきました。現在では、海外の先進諸国と比較しても遜色のないスマートフォン決済サービスが数多く登場しています。それにもかかわらず、多くの人々が今なお現金を選び続ける姿は、変化に遅れているというよりも、あえて新しい波に背を向けているようにすら感じられます。
SNS上では「小銭を出す手間が省けて便利になった」という肯定的な意見が目立つ一方で、セキュリティへの不安や、慣れ親しんだ現金の安心感を重視する声も根強く残っています。しかし、私たちが当たり前のように享受してきた「現金を安価に使える環境」は、実は非常に贅沢で危ういバランスの上に成り立っているのです。
インフラ維持の限界と忍び寄る負担の影
日本の現金決済を支える柱は、偽造が困難で高品質な通貨、街の至る所に設置されたATM、そして安全な現金輸送網の3点です。これまでは銀行などの金融機関が莫大なコストを肩代わりしてきたため、私たちはほとんど負担を感じずに済みました。しかし、こうした「無料のインフラ」は、もはや限界を迎えつつあります。
2019年04月には新紙幣と500円硬貨の刷新が発表されましたが、これらを維持するコストは決して小さくありません。さらに深刻なのは、マイナス金利政策の長期化によって、金融機関がATMの台数や稼働時間を維持する体力を奪われている点です。マイナス金利とは、銀行が中央銀行に預けるお金に金利がかかる仕組みで、収益環境を圧迫する要因となります。
加えて、深刻な人手不足は現金輸送のコスト増に直結します。今後は、目に見える形での手数料引き上げや、利便性の低下という形で、現金派の人々も実質的なコスト増を突きつけられることになるはずです。キャッシュレス決済への移行は、もはや個人の好みの問題ではなく、社会の持続可能性に関わる選択だと言えるでしょう。
来たる2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。キャッシュレスが当たり前の国々から訪れる観光客にとって、ストレスのない決済環境を用意することは、ホスト国としての最低限のマナーです。日本が再び世界をリードするためにも、この転換期を前向きに捉える姿勢が求められています。
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