東南アジアの経済拠点であるタイが、今まさに「通貨高」という荒波に揉まれています。2019年11月13日現在、タイの通貨バーツは主要通貨に対して極めて高い水準を維持しており、この状況は輸出に頼る同国経済に深刻な影を落としているのです。タイ中央銀行はバーツ高を抑制しようと躍起になっていますが、そこには「世界の警察官」を自負する米国の鋭い視線が立ちはだかっています。
SNS上では、タイ旅行を計画する層から「物価が高く感じる」と嘆きの声が上がる一方で、現地の輸出業者からは「利益が吹き飛ぶ」と悲鳴に近い投稿が散見されます。この通貨高の背景には、タイの強固な財政基盤と経常収支の黒字があるのですが、皮肉なことにその「健全さ」が投資家を呼び込み、さらなるバーツ買いを招くという連鎖が起きています。
米国の「為替操作国」指定というリスク
タイ当局が最も恐れているのは、米国から「為替操作国」と認定され、制裁を受けるシナリオでしょう。為替操作国とは、自国の輸出を有利にするために意図的に自国通貨を安く誘導していると判断された国のことです。米国財務省は2019年5月の報告書で、東南アジアの近隣諸国を監視リストに追加しました。対米貿易黒字が膨らむタイも、次は我が身かと戦々恐々としています。
実際に、米国はすでに目に見える形で圧力を強め始めています。米通商代表部(USTR)は2019年10月、タイへの一部特恵関税(GSP)を2020年4月25日から停止すると発表しました。表面上の理由は労働者の権利保護ですが、実態は貿易赤字を削減したいトランプ政権の狙いが透けて見えます。このように、政治と経済が複雑に絡み合う中で、タイは非常に難しい舵取りを迫られているのです。
私自身の見解としては、こうした外圧による抑制策の限界は明白だと感じます。SMBC日興証券のエコノミストが指摘するように、構造的な黒字がある以上、バーツの高止まりは避けられないでしょう。現地メディアでも「1ドル=30バーツ」という心理的節目をめぐる攻防が注目の的となっています。輸出で成長してきたタイにとって、現在の通貨高はまさに経済モデルの賞味期限を突きつけているのかもしれません。
バーツ高を追い風に変える「産業構造の転換」
一方で、この逆風を逆手に取る動きも出始めています。バーツが強いということは、タイの企業にとって「海外の資産を安く買える」という大きな武器になります。食品大手のCPフーズは、2019年中に海外拠点の拡大へ300億バーツを投じる計画を打ち出しました。これは単なる投資ではなく、海外売上高比率を高めることで、自国通貨の変動に左右されにくい体質を作るための「攻めの防御」と言えるでしょう。
経済のプロたちが語るように、かつての「安価な労働力と輸出」というビジネスモデルは、バーツ高によって終焉を迎えつつあります。これはタイ経済が、製造拠点から投資主体へと成熟していくための脱皮のプロセスではないでしょうか。痛みは伴いますが、この転換期を乗り越えた先には、より強固な経済基盤が待っているはずです。今後のタイ市場からは、一瞬たりとも目が離せません。
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