【キリンHDの革新】「適正飲酒」が切り拓く持続可能な未来。SDGsを経営の核に据える老舗企業の挑戦

お酒を飲み過ぎてしまい、ふと目を覚ましたらそこは病院のベッドの上だった。そんな衝撃的なシーンから始まる動画が、2019年秋のインターネット上で大きな注目を集めています。この動画を制作したのは、なんと日本を代表する飲料メーカーであるキリンホールディングスです。自社製品の消費を抑制しかねない「適正飲酒」の啓発活動に、なぜこれほどまで情熱を注いでいるのでしょうか。

ネット上では「メーカーが自ら飲み過ぎに警鐘を鳴らす姿勢は信頼できる」「スロードリンクという考え方に共感した」といった好意的な意見が多く寄せられています。キリンが掲げる「スロードリンク」とは、アルコールをゆっくりと嗜み、心身ともに心地よい量を守るという新しい文化の提案です。短絡的な売上至上主義から脱却し、社会と共に歩む企業の覚悟が、SNSを通じた現代の消費者にも深く刺さっているようです。

スポンサーリンク

危機感から生まれた「共有価値の創造」という戦略

こうした取り組みの背景には、事業の持続可能性に対する強い危機感があります。現在、世界保健機関(WHO)を中心に不適切な飲酒による健康被害への議論が活発化しており、規制の強化は酒類メーカーにとって大きな向かい風になりかねません。同社のCSV戦略を担う野村隆治執行役員は、今のままでは事業が長続きしないという問題意識を抱えていました。

ここで鍵となる「CSV(Creating Shared Value)」とは、企業の事業活動を通じて社会課題を解決し、社会価値と経済価値の両立を目指す経営手法のことです。単なる慈善活動ではなく、ビジネスの本業を通じて社会を良くすることが、結果として企業の成長にも繋がるという考え方です。キリンは社員を大学や企業へ派遣するセミナーに加え、ミャンマーなどの海外拠点でも現地の言葉で適正飲酒を呼びかけています。

同社が社会貢献の重要性を再認識した原点は、2011年3月11日に発生した東日本大震災にあります。自社の仙台工場が甚大な被害を受ける中で地域の復興支援に奔走した経験が、「社会を支えてこそ事業が成り立つ」という揺るぎない信念を形作りました。2019年2月には「SDGs(持続可能な開発目標)」に基づいたグループ全体の数値目標「CSVパーパス」を公表し、その歩みを加速させています。

環境と産地を守る、全方位のサステナビリティ

キリンの改革は飲酒文化の啓発に留まりません。2019年12月からは岡山県のビール工場にて、画期的な省エネシステムが稼働を開始します。これは、従来は廃棄されていた外気の熱を「ヒートポンプ」と呼ばれる技術で効率よく回収し、製造工程の加熱に再利用する仕組みです。この高度な熱エネルギー循環システムを、将来的には国内すべての工場へ導入することを目指しています。

さらに、人気商品「午後の紅茶」に使用するスリランカ産の茶葉についても、現地の農園が環境に配慮していることを証明する「環境認証」の取得を支援しています。また、ワイン事業を展開するメルシャンでは、長野県のブドウ畑において失われつつある生態系の再生にも着手しました。これらは、原材料の調達源そのものを守ることで、100年先も美味しい飲み物を提供し続けるための布石と言えるでしょう。

2019年からは、これらの取り組みの成果を測定するために「KPI(重要業績評価指標)」を導入し、進捗を数値化して管理する体制も整えました。野村執行役員は、自社の行動が業界全体のスタンダードを変えていく原動力にしたいと力強く語っています。目先の利益を追うのではなく、地球環境や人々の健康を真剣に考える姿勢こそが、これからの時代を生き抜く企業の条件となるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました