バレエと日本舞踊が織りなす「信長」の衝撃!ルジマトフと藤間蘭黄が魅せる究極の共演

2019年11月27日、東京・浅草公会堂は、異文化が激突し融合する稀有なエネルギーに包まれました。花道から姿を現したのは、黒いメッシュを羽織り「うつけ者」としての危うさを漂わせる一人の男、世界的なバレエ・ダンサーのファルフ・ルジマトフ氏です。そのしなやかな足運びと、膝下からつま先へと流れるような洗練された歩行は、日本舞踊の舞台に新たな風を吹き込みました。

今回再演された「信長―SAMURAI―」は、日本舞踊家の家元・藤間蘭黄氏とロシア・バレエ界の巨匠たちが2015年に結成した奇跡のユニットから誕生した作品です。天下統一を目前に散った織田信長の孤独な魂を、3人の圧倒的な個性がぶつかり合うステージとして描き出しています。SNS上でも「異ジャンルのはずなのに違和感どころか鳥肌が立つ」と、その芸術性の高さに驚きの声が広がっているようです。

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異才たちが体現するカリスマの光と影

主役の信長を演じるルジマトフ氏は、若き日からその鋭い眼光と底知れぬカリスマ性でファンを虜にしてきました。今作でも桶狭間の戦いや比叡山焼き打ちといった歴史的場面において、あえて無表情を貫くことで、その背中に鉛のような重厚な風格を漂わせています。一切の妥協を許さない彼の佇まいは、まさに戦国時代の覇王そのものと言えるでしょう。

また、ボリショイ・バレエ団で活躍した岩田守弘氏が演じる豊臣秀吉も見逃せません。トリックスター、つまり物語をかき乱し展開を加速させる「いたずら者」のような役割を、衰えを知らない跳躍力で見事に表現しています。抜け目のない観察者としての冷徹さと、場を翻弄する軽やかさを併せ持つ彼の動きは、バレエ界で「最高の道化」と称賛された往年の実力を感じさせるものです。

そして、物語の深みを支えるのが光秀役の藤間蘭黄氏です。彼は信長の才能をいち早く見抜いた斎藤道三との二役をこなし、台本も手掛けています。屈辱が抑えきれない怒りへと変貌していく過程を、日本舞踊特有の抑制された動きの中から溢れ出させる表現力は圧巻です。内面から湧き上がる情熱が、静寂を切り裂くように観客に伝わってきます。

洗練を極めた「信長の最期」と魂の飛翔

かつての初演時と比較して、演出の細部がより削ぎ落とされ、洗練を増している点も特筆すべきでしょう。特に秀吉が光秀を討つのを見届けて信長が昇天するラストシーンは、以前の過剰な羽毛の衣装を廃し、身一つで演じられています。これにより、かえって魂の「浄化」と「飛翔」というイメージが鮮明になりました。その姿は、まるで白鷺か、あるいは高貴な白鳥のようです。

このように、日本舞踊とバレエが互いの技法に安易に歩み寄らず、それぞれの「極致」をぶつけ合うスタイルこそが、本作を唯一無二の芸術に昇華させています。伝統を守るだけでなく、異なる文化と衝突させることで新たな美を模索する蘭黄氏の挑戦的な姿勢には、伝統芸能の未来を明るく照らす可能性を感じずにはいられません。

演目には他にも、各演者の個性が光るソロ曲「遊山」「メフィスト・ワルツ」「レクイエム」が並び、観る者を飽きさせない構成となっています。今回の再演は、単なるコラボレーションを超え、歴史に名を刻む舞踊劇へと進化したと言えるはずです。伝統と革新が交差する瞬間に立ち会えた幸運を、多くの観客が共有した一夜となりました。

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