【幸福路のチー】台湾アニメの傑作!失われた色を取り戻す、心震えるノスタルジックな感動作

2019年12月06日、映画評論家の宇田川幸洋氏が星4つの高評価を与えたアニメーション映画『幸福路のチー』が、いま多くの観客の胸を打っています。物語は台北郊外の「幸福路」という名の街へ、幼い少女チーが家族と共に引っ越してくる場面から幕を開けます。トラックの荷台に揺られながら見た景色は、彼女の長い旅の始まりを予感させるものでした。

幼少期のチーは、どこにでもいる空想好きな女の子でした。いつか白馬の王子様が自分を迎えに来てくれると本気で信じていたほどです。現実の父親はといえば、熱心に宝くじの当選を夢見るような少し頼りない人物でしたが、一度だけチーの目に王子様として映ったことがありました。それは自転車で颯爽と現れ、恐ろしい野犬から彼女を守ってくれた瞬間の出来事です。

月日は流れ、舞台は現代のニューヨークへと移ります。大人になったチーの表情はどこか沈んでおり、幸せとは言い難い日々を過ごしているようです。そんな彼女のもとへ、故郷の台湾から悲しい知らせが届きました。大好きだった祖母がこの世を去ったという電話です。これをきっかけに、彼女はかつて過ごした幸福路へと、自分自身を見つめ直す帰郷の途につきます。

本作のユニークな点は、チーが1975年04月05日、つまり台湾の重要な政治指導者であった蔣介石総統が逝去した日に生まれたという設定です。彼女の歩みは、そのまま台湾という国が歩んできた激動の現代史と重なり合っています。アラフォーになった現在の彼女と、輝いていた子供時代の彼女が、溢れ出すイメージの奔流の中で自由自在に入れ替わりながら描かれていきます。

映像表現において特筆すべきは、チーの心情を映し出す色彩の使い分けでしょう。希望に満ちていた子供時代の幸福路は、温かく柔らかな光に包まれています。対照的に、悩みを抱える現在の彼女を取り巻くのは、冷たく沈んだトーンの色調です。しかし、この相反する色が重なり合うことで、彼女という一人の人間の深みが形作られていることが丁寧に描写されます。

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受け継がれるアイデンティティと未来への光

亡くなった祖母は、台湾の先住民族であるアミ族の出身でした。山から時折遊びに来ては、幼いチーに寄り添ってくれた精神的な支えでもあります。たとえ姿は見えなくなっても、チーが心の中で祖母に語りかけ、その言葉に励まされる様子は、血のつながりや文化的なルーツが、どれほど人の心を強く保つかを教えてくれるのではないでしょうか。

SNS上では「号泣した」「自分の人生と重ねてしまった」といった感動の声が相次いでいます。特に、同級生と一緒に『ガッチャマン』の歌を歌った思い出など、日本文化との関わりも描かれており、親近感を覚えるファンも多いようです。時代が変わっても変わらない友情や、移り変わる街並みへの切なさが、観る者の心に深く突き刺さります。

メガホンを取ったのは、1974年生まれのソン・シンイン監督です。本作は彼女自身の経験を投影した半自伝的な長編デビュー作であり、主人公チーの声は人気女優のグイ・ルンメイさんが務めています。単なるノスタルジーに浸るだけでなく、今の自分を肯定するための勇気をくれる本作は、現代を生きるすべての人に捧げられた珠玉の人間ドラマと言えるでしょう。

私自身、この映画を観て感じたのは、人生とは決して一本道ではなく、過去の痛みも喜びもすべてが層のように重なって「今」があるということです。歴史という大きな流れの中で、個人の小さな幸せを模索するチーの姿は、とても愛おしく映ります。2019年12月現在、これほどまでに深い感慨を味わえるアニメーションに出会えたことは、まさに幸運な体験でした。

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