2019年11月25日、農林水産省は、同年10月に列島を襲った台風19号などによる農林水産関連の被害額が、3,000億円を突破したことを公表しました。9月の台風15号による打撃を加えれば、その数字はさらに膨らみます。損害保険業界においても、自然災害による支払保険金が主要3社で1兆円を超えることが確実視されており、もはや異常気象は「たまに起こる不運」ではなく、経済を揺るがす常態的な脅威となっているのです。
こうした状況を背景に、日本銀行の黒田東彦総裁は2019年11月28日の講演にて、金融安定に関する新たな課題として「気候関連リスク」に初めて言及しました。これは、激甚化する災害が資産価値の下落や担保価値の毀損を招き、巡り巡って金融システムの根幹を揺るがしかねないという警告です。SNS上でも「日銀が気候変動をリスクと認めた意義は大きい」「災害が家計だけでなく金融機関まで圧迫し始めている」といった驚きと共感の声が広がっています。
「S+3E」の限界と、直面する人命への脅威
これまでの日本のエネルギー政策では、安全性(Safety)を大前提としつつ、自給率(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)のバランスを取る「S+3E」が金科玉条とされてきました。特定の電源に偏らず、安定した電力を供給することが最優先だったわけです。しかし、現在の私たちは、気候変動に歯止めをかけなければ停電が日常化し、莫大な経済損失と命の危険が隣り合わせになるという厳しい現実を目の当たりにしています。
私は、今こそ環境保全を「3E」の一つとして並べるのではなく、最優先事項として再定義すべきだと考えます。かつてはエネルギー価格の上昇が製造業の海外流出を招き、雇用を奪うと危惧されてきました。しかし、2019年現在の日本経済を冷静に見渡せば、すでに構造そのものが大きな変貌を遂げていることが分かります。モノを作って売る「貿易立国」から、海外への投資で利益を得る「投資立国」へと、私たちは着実にシフトしているのです。
ここで注目したいのが「第一次所得収支」という言葉です。これは、海外の企業を買収したり、外国の株式や債券に投資したりすることで得られる、利子や配当金の収支を指します。財務省が公表した資料によれば、近年の日本はこの収支の黒字が安定しており、輸出の伸び悩みを十分に補える規模に成長しました。つまり、国内で化石燃料への依存を減らし、たとえ電力コストに変化が生じても、日本経済全体が破綻するような脆弱さは克服されつつあるのです。
世界を驚かせた巨額買収が示す「上がり」で稼ぐ新時代
2019年11月末、三菱商事と中部電力がオランダのエネルギー大手「エネコ」の買収に向けて優先交渉権を得たというニュースは、世界中に大きな衝撃を与えました。その買収額は最大41億ユーロ、日本円で約5,000億円に達します。エネコは120万キロワットもの再生可能エネルギー資産を保有し、科学的根拠に基づいた「2度目標」を掲げる先進的な企業です。日本のエネルギー業界が、ついに「海外のクリーンエネルギー資産」から利益を得る構造へと足を踏み出した象徴的な出来事と言えるでしょう。
この動きは、私たちが今後のエネルギーミックス(電源構成)を考える上で、非常に重要な示唆を与えてくれます。もはや2030年に向けて、従来の計画に縛られる必要はありません。石炭や原子力の比率を引き下げ、再生可能エネルギーを30%程度まで引き上げるという野心的な見直し案は、現在の経済構造から見ても十分に合理的で、説得力のある選択肢となってきているのではないでしょうか。
技術力を背景にした「モノ作り」の精神は失ってはなりませんが、同時に、時代を先取りした資産を見極める「投資の眼」も不可欠です。気候変動というリスクを直視し、古いエネルギー観から脱却すること。それこそが、将来的に「価値のない資産」を抱え込むリスクを回避し、日本経済を次のステージへ押し上げる唯一の道であると確信しています。
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