2019年も残すところわずかとなり、世界中がノーベル賞授賞式の華やかな雰囲気に包まれるはずでした。しかし、今年の文学賞を巡っては、かつてないほどの緊迫した空気が漂っています。2019年12月6日、ノーベル文学賞の選考を担うスウェーデン・アカデミーのメンバーであるペーテル・エングルンド氏が、来週に控えた授賞式への欠席を表明したのです。このニュースは瞬く間に世界を駆け巡り、文学界に大きな衝撃を与えています。
エングルンド氏がこれほどまでに強い拒絶反応を示しているのは、受賞者に選ばれたオーストリアの作家、ペーター・ハントケ氏の過去の言動に理由があります。ハントケ氏は、1990年代の旧ユーゴスラビア紛争において、セルビア側の指導者であった故スロボダン・ミロシェビッチ元大統領を擁護する立場を取ってきました。人道に対する罪で問われた人物を支持した作家に、世界最高峰の栄誉を授けることへの是非が、今まさに厳しく問われているのです。
エングルンド氏は地元メディアへの書簡の中で、ハントケ氏を祝うことは「偽善」に他ならないと、極めて辛辣な言葉で批判を展開しました。事務局長という重職を歴任した彼のような人物が公然と反旗を翻すのは異例中の異例と言えるでしょう。SNS上でも「文学の質と作家の思想は切り離せるのか」という議論が白熱しており、人権意識の高まりとともに、アカデミーの選考基準に対する懐疑的な見方が急速に広がっています。
繰り返される混乱と選考委員の辞任が物語るもの
実は、この不穏な空気は今に始まったことではありません。2019年12月2日には、文学賞の外部選考委員が突然の辞任を発表し、周囲を驚かせたばかりです。この辞任劇の背景にも、やはりハントケ氏への授賞決定に対する根強い不信感があったと指摘されています。スウェーデン・アカデミーは不祥事による発表見送りを経て、信頼回復を目指していたはずでしたが、皮肉にも新たな火種を抱え込む形となってしまいました。
ここで言う「外部選考委員」とは、アカデミー内部の硬直化した選考プロセスに透明性を持たせるために招かれた、専門的な知見を持つ有識者たちのことです。彼らが組織を去るという事態は、内部での対話がもはや限界に達していることを示唆しているのかもしれません。平和や人道を重んじるノーベル賞の理念と、紛争の歴史に翻弄される政治的発言。この二つの間で揺れ動くアカデミーの姿は、現代社会における文学のあり方を私たちに問いかけています。
個人的な見解を述べさせていただくと、文学的な才能が卓越していることと、一人の人間としての公的な発言が周囲に与える影響は、もはや無視できない段階に来ていると感じます。特に旧ユーゴ紛争のような凄惨な記憶を持つ人々にとって、今回の授賞は深い傷を抉る行為になりかねません。言葉が力を持つからこそ、その言葉を扱う作家には相応の責任が伴うべきでしょう。式典でのハントケ氏の発言に、今、世界中の熱い視線が注がれています。
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