日本の古き良き街並みが、まるごと一つのホテルに生まれ変わるという画期的なプロジェクトが注目を集めています。大阪市に拠点を置く「セカイホテル」は、地域に点在する空き家を客室として再活用する「分散型ホテル」という形態で運営を行っています。この取り組みは単なる宿泊施設の提供に留まらず、地域住民との触れ合いや地元の商店街をフロントやレストランに見立てることで、旅先での「日常」を体験できるのが最大の魅力です。
2019年12月16日、同社は訪日外国人や国内に住む在留外国人をターゲットにした新たな集客戦略を本格化させました。その柱となるのが、SNSでも大きな話題を呼んでいるYouTubeチャンネルの開設です。特にユニークなのは、同社で働く外国人スタッフが自らクリエイターとなり、母国語で地域のディープな魅力を発信している点でしょう。作り込まれた広告ではなく、等身大の視点で描かれる日本の姿が、海外の視聴者の心を掴んでいます。
動画配信の第1弾として、フランス出身のデザイナーであるマティアスさんが登場しました。彼は地元の和菓子店での伝統的な菓子作りや、赤提灯が灯る居酒屋で地元客と杯を交わす様子を数分間の映像に凝縮しています。フランス語のテロップで食材の細かい解説を加え、店主との飾らない会話を伝えることで、従来の観光ガイドブックには載っていない「本当の日本」を世界へ届けているのです。
こうした動画活用に対し、ネット上では「自分たちが住む街の魅力に改めて気づかされた」といった地域の方々の声や、「こういう交流ができるなら日本に行ってみたい」という外国人からの好意的な反応が寄せられています。ターゲットをフランスやアジア圏、米国など明確に絞り込み、それぞれの文化背景に合わせた情報発信を強化することで、熱狂的なファンの獲得を目指す同社の戦略は非常に理にかなっているといえるでしょう。
地域と在留外国人を結ぶ「多文化共生」の新しい形
セカイホテルの視線は、海外からの観光客だけではなく、日本で暮らす在留外国人にも向けられています。2019年6月末時点での国内の在留外国人数は282万9416人と過去最高を記録しており、多文化共生は社会的な重要課題となりました。そこで同社は、近隣に住む外国人がカフェを無料で利用できるクーポンの配布などを通じ、地域コミュニティへの参加を促す取り組みをスタートさせています。
日常的に施設へ立ち寄ってもらうことで認知度を高め、将来的な「採用」に繋げるという構想も非常に興味深いものです。サービス業における人手不足が深刻化する中、異国で暮らす不安を解消しながら、彼らをサービスを支える強力な「戦力」として迎える姿勢は、企業の成長と社会貢献を両立させる素晴らしいモデルです。顧客がそのままスタッフになり、また新たな魅力を発信するサイクルが生まれようとしています。
今後の展開も目が離せません。2022年までに全国10店舗規模への拡大を計画しており、2020年春には富山県への進出を予定しています。富山は台湾との直行便があるほか、台湾で絶大な人気を誇る『ドラえもん』の作者のゆかりの地でもあるため、戦略的な集客が期待されます。空き家という地域課題を、観光資源と雇用創出のチャンスに変えるセカイホテルの挑戦は、日本の地方創生に新たな光を照らすことになるでしょう。
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