2019年10月、日本列島を襲った記録的な台風19号は、各地に深い爪痕を残しました。栃木県佐野市に構える県内最古の老舗、第一酒造もその例外ではありません。堤防が決壊した秋山川のほど近くに位置する同社は、敷地内が浸水し、大量の土砂が流れ込むという深刻な事態に直面したのです。
一時は製造が完全にストップする危機的状況にありましたが、多くのボランティアの方々の献身的な協力により、土砂の除去作業は驚くべきスピードで進みました。島田嘉紀社長も、この迅速な復旧を支えてくれた支援者の皆様に対し、言葉では言い尽くせないほどの深い感謝の意を述べておられます。
伝統を守る「麹室」の再建と待望の仕込み開始
酒造りの心臓部とも言える「麹室(こうじむろ)」の復旧には、細心の注意が払われました。麹室とは、蒸したお米に麹菌を繁殖させ、日本酒の味を決める重要な「米麹」を作る専用の部屋のことです。衛生管理が極めて重要なため、浸水した床や壁だけでなく、水に触れた可能性のある箇所をすべて撤去し、一から作り直すという決断が下されました。
再建工事が無事に完了した2019年12月9日、例年より約2カ月遅れながらも、ついに待望の麹づくりが開始されました。SNS上でも「第一酒造さんの復活を待っていた」「再開のニュースを聞いて勇気をもらった」といった、熱い応援の声が次々と寄せられています。地元の誇りである酒蔵の再始動は、地域全体に明るい希望を灯しているようです。
復活の象徴となる注目の新酒は、2020年1月下旬に出荷される見込みとなっています。最初に届けられるのは、フレッシュな香りが魅力の「しぼりたて純米酒」です。この一杯には、災害を乗り越えた蔵人の情熱と、復興を支えた人々の絆が凝縮されているに違いありません。
私自身、困難に立ち向かい、伝統の灯を絶やさずに前を向く第一酒造の姿勢には深く感銘を受けました。単なる復旧ではなく、安全性を高めて再建された麹室から生まれるお酒は、これまで以上に力強く、心に響く味わいになるはずです。新酒が店頭に並ぶ日が、今から待ち遠しくてなりません。
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