2019年の国際商品市場を振り返ると、米中貿易摩擦という荒波に多くの品目が翻弄されました。しかし、そんな不透明な情勢下で、驚異的な独走状態を見せた貴金属が存在します。それが、自動車の排ガス浄化に欠かせない「パラジウム」です。この希少な金属は、世界的な環境意識の高まりを背景に、今や投資家や産業界から熱視線を浴びる存在となっています。
ニューヨーク市場のパラジウム先物相場は、2019年12月25日現在、1トロイオンスあたり1850ドル前後という高値圏で推移しています。これは年初と比較して約6割もの上昇を記録しており、長らく700ドル付近で安定していた数年前の状況からは想像もつかない爆騰ぶりです。現物価格に至っては、2019年12月17日に大台の2000ドルを突破し、まさに歴史的な高騰劇を演じています。
世界的な排ガス規制が需要を加速させる
これほどまでに価格が跳ね上がった最大の要因は、世界各国で強化されている排ガス規制にあります。特に自動車大国である中国では、2019年7月1日から主要都市で「国6」と呼ばれる極めて厳しい新規制が先行導入されました。この規制をクリアするためには、ガソリン車の排ガスに含まれる有害物質を取り除く「触媒(しょくばい)」へのパラジウム使用量を大幅に増やす必要があるのです。
触媒とは、化学反応を促進させることで排ガスを無害な水や二酸化炭素に変換する装置の心臓部を指します。2020年にはこの規制が地方都市にも拡大される予定で、1台あたりの使用量はさらに増加する見通しです。また、欧州でも2020年に向けて規制が一段と厳格化されるため、環境対応への「ラストスパート」とも言える調達ラッシュが市場の供給不足に拍車をかけています。
SNS上では、このパラジウムの急騰に対し「金(ゴールド)よりも高価な金属になった」「ガソリン車がなくならない限り、この勢いは止まらないのでは」といった驚きの声が多く上がっています。かつてはプラチナの代用品というイメージもありましたが、今や主役の座を完全に奪い取った格好です。供給面でも、パラジウムは他の中間生成物として採掘されることが多いため、急な増産が難しいというジレンマも抱えています。
ガソリン車優位の時代は続くのか
編集者の視点から見れば、このパラジウム狂騒曲は「環境対策」と「経済」が密接にリンクした現代を象徴する現象だと言えるでしょう。電気自動車(EV)への移行が叫ばれて久しいですが、現実的には依然としてガソリン車やハイブリッド車が市場の主流です。皮肉にも、環境を守ろうとする規制が強まれば強まるほど、化石燃料を使う車に不可欠なパラジウムの価値が吊り上がっていくという構図が鮮明になっています。
同様に、触媒に用いられる「ロジウム」も2019年には価格が2.5倍に跳ね上がるなど、貴金属市場はまさに「触媒バブル」の様相を呈しています。鉱山会社による新鉱山の開発が進んではいるものの、市場への本格供給は2020年代半ばまで待つ必要があるでしょう。2020年以降、この記録的な上昇トレンドがどこまで持続するのか、そして自動車業界のEVシフトがパラジウムの「絶対王政」をいつ揺るがすのか、その行方から目が離せません。
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