南米の優等生と呼ばれたチリが、かつてない激動の渦中にあります。地下鉄運賃の引き上げをきっかけに始まった抗議活動は、2019年10月18日の本格化からすでに2ヶ月が経過しました。2019年12月25日現在、11月に予定されていたAPEC首脳会議の中止という異例の事態を経てなお、首都サンティアゴでは市民と治安当局による激しい衝突が日常の一部と化しているのです。
SNS上では、若者たちが道路の縁石を砕いて投石し、警察側が催涙弾で応戦するショッキングな映像が次々と拡散されています。かつての静かな街並みは一変し、ホテルや商業ビルは襲撃を避けるための金属板で覆われ、無数の落書きに埋め尽くされました。本来であれば華やかな雰囲気に包まれるはずのクリスマスシーズンですが、今年のサンティアゴにその面影はありません。
深刻な景気後退の足音と冷え込む観光業
経済へのダメージは想像以上に深刻です。特に観光業への打撃は目に見えて明らかで、本来であれば書き入れ時である2019年12月から2020年2月にかけてのホテル予約率は、例年の70%を大きく下回る30%台にまで低迷しています。消費者のマインドも凍りついており、2019年10月の小売売上高は前年の同じ時期と比べて12.1%も減少するという異例の事態を招きました。
専門用語で「リセッション」と呼ばれる景気後退の懸念も現実味を帯びてきました。リセッションとは、景気が一時的な波を超えて持続的に衰退する状態を指しますが、現在のチリはまさにその入り口に立っています。財務相が「ネガティブな年末を迎える」と語る通り、新車の販売台数が3割近く落ち込むなど、主要な経済指標はリーマン・ショック以来の歴史的な下げ幅を記録しています。
今回のデモの特筆すべき点は、SNSや対話アプリを通じて個人が自発的に集まっていることです。特定の指導者がいないため、政府にとっては交渉の窓口が見つからないという難問に直面しています。政府は運賃の引き上げ撤回や、2020年4月の憲法改正に向けた国民投票の実施を提示しましたが、長年の格差に怒る市民の心に届くには至っていないのが現状です。
個人的には、経済成長の陰で蓄積された不平等の重さを感じずにはいられません。かつて経済の安定を誇ったチリでさえ、国民の納得感が得られなければ、これほどまでに脆く崩れてしまうのです。社会正義を求める情熱が破壊的な混乱ではなく、建設的な対話へと昇華される道を一刻も早く見出すべきでしょう。2020年がチリにとって再生の年となることを願って止みません。
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