ミャンマーの街角を歩けば、頬に薄黄色の模様を描いた女性や子供たちの姿が目に飛び込んできます。これは「タナカ」と呼ばれる、同国で2000年以上も愛され続けてきた伝統的な天然化粧品です。ミャンマーに自生する柑橘系の樹木を石の台で磨り潰し、水で溶いて肌に塗るという極めてシンプルな美容法ですが、その効果は驚くべきものがあります。現地では1個あたり約100円という非常に手頃な価格で親しまれてきました。
このタナカには、強力な紫外線を遮る日焼け止めの効果だけでなく、毛穴を引き締めたりニキビを予防したりする整肌作用が備わっています。化学物質を一切含まないオーガニックの先駆けとも言える存在ですが、2011年の民政移管を境に大きな転換期を迎えました。経済開放によって韓国や欧米から洗練されたパッケージの輸入化粧品が大量に流入し、特に都市部の若者の間で「タナカ離れ」が加速しているというニュースが世間を賑わせています。
SNS上では、この伝統の危機に対して「おばあちゃんの香りがして落ち着くのに寂しい」「天然成分100%の価値を再評価すべきだ」といった、文化の衰退を惜しむ声が数多く寄せられています。一方で、「自分で木を削るのは手間がかかる」という現代人のライフスタイルに合わせた利便性を求める意見も目立ちます。こうした時代の波に押され、古き良き美の習慣がかつてないほどの苦境に立たされているのは間違いありません。
こうした状況を打破しようと、地元の企業も必死の改革に乗り出しました。原木のまま販売する従来スタイルだけでなく、タナカの成分をベースにした保湿クリームや洗顔フォームなど、使い勝手の良い新商品の開発を2019年09月08日現在も精力的に進めています。伝統をそのまま守るのではなく、現代のニーズに寄り添う形へ進化させることで、輸入品に負けないブランド力を構築しようとする力強い動きが見て取れるでしょう。
筆者の個人的な見解としては、タナカは単なる化粧品を超えたミャンマーのアイデンティティそのものだと感じます。利便性やトレンドを追うことも重要ですが、自然と共生してきた知恵の結晶を失うのはあまりに惜しいことです。今後は世界的なナチュラル志向の流れを追い風に、エシカルな高級コスメとしての地位を確立できる可能性も秘めています。伝統と革新が融合し、再びタナカが輝きを取り戻す日が来ることを願ってやみません。
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