深刻化する「採用難」の危機!小売業界が断行する 働き方改革と待遇改善の最前線【2018年度調査】

長引く人手不足は、今や小売業界にとって経営の根幹を揺るがす深刻な問題となっています。 2019年6月26日に公開された2018年度の小売業調査結果は、その危機的な状況を浮き彫りにしています。 回答した企業の半数以上が「必要な人員を充足できていない」と回答し、そのうち実に94.2%が「採用難」を理由として挙げています。 これは単なる一過性の現象ではなく、構造的な問題として業界全体にのしかかっていると言えるでしょう。

特に深刻なのは、従業員総数に占めるパート・アルバイトの比率が7割以上という企業が37%を超える実態です。 このため、小売企業は正社員だけでなく、店舗運営の要であるパート・アルバイトの待遇改善をさらに強化する必要に迫られています。 SNS上でも、「店員さんが疲弊しているのが伝わってくる」「好きな店だけど、人手が足りなくて大変そう」といった、現場の苦労を推し量る声や、利用者としてサービスレベルの低下を懸念する反響が多く見受けられます。

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現場の苦悩:スーパー・生協で人員不足が深刻化

業態別に見ると、特に人員確保に苦しんでいる状況が浮き彫りになったのがスーパーと生活協同組合(生協)です。 多くの生協が2018年度、そして続く2019年度についても「人材確保が厳しい」と回答しています。 一例として、生活協同組合コープさっぽろの2018年度決算では、経常利益にあたる経常剰余金(一般企業の経常利益に相当し、本業とその付随的な活動から得られた利益を示す指標)が、人手不足による人件費の積み増しで採算が悪化し、対前年度比で30%も減少してしまいました。 宅配事業が好調だったにもかかわらず、人手不足のコスト増を吸収できなかったのです。

スーパーが成長戦略の柱としてきた総菜事業も、人手不足の深刻な足かせとなっています。 日本惣菜協会によると、2018年の市場規模は10兆2518億円と9年連続で増加していますが、伸び率は3年連続で縮小傾向にあります。 出来たての総菜や品ぞろえでコンビニエンスストアや外食産業と対抗してきたスーパーにとって、総菜部門は作業量が多いため、一定の従業員確保が欠かせません。 しかし、人手が足りないため、総菜の売上高(既存店)は、日本チェーンストア協会の集計で2019年3月まで前年同月比で5カ月連続の減少という、厳しい状況に直面しているのです。

大胆な待遇改善:パート・アルバイトの非正規雇用に光

この人手不足の波を受け、小売企業は「働き方改革」を急ピッチで進めています。 正社員の働き方改革として、「賃金改善」に取り組む企業は59.2%に達し、「休日・休暇の拡大」(43.3%)や「福利厚生の充実」(41.5%)、「勤務時間の短縮」(41.0%)なども積極的に実施されています。

しかし、パート・アルバイトの待遇改善への取り組みは、正社員を大きく上回る勢いです。 特に「賃金水準の改善」を実施している企業は69.7%と約7割に迫り、「正社員への登用」も70.1%と最も多くの企業が取り組む事項となっています。 さらに、「無期雇用への転換」(65.7%)や「昇進・昇格」(55.5%)といった、非正規雇用従業員のキャリアパスや雇用の安定化につながる施策も積極的に導入されています。

この動きを象徴するのが、大手企業による「無期転換ルール」の先行導入です。 労働契約法が定める、雇用期間が5年を超えた場合に無期限雇用に転換できるルールとは別に、スーパー大手のサミットは2018年6月から、1年を超えて働いたパート・契約社員からの申し入れで無期雇用を受け入れる制度を導入しました。 また、百貨店の高島屋も2017年5月から同様の制度を導入しており、大手による5年未満での無期転換容認の動きが相次いでいるのです。 これは、小売業や外食産業などの労働組合で構成されるUAゼンセンに加盟する企業の約2割に広がりを見せており、従業員の定着率向上とモチベーション維持に不可欠な対策だと考えられます。

営業時間短縮の難しさ:競争とのジレンマ

従業員確保と働きやすさの追求の両立を図る上で、営業時間や営業日数の短縮は有効な手段です。 しかし、激しい競争にさらされている小売業界にとって、この一歩を踏み出すのは非常に難しいようです。 1年前に比べて店の営業時間を短縮した小売業は19.2%、営業日数を減らした企業は12.6%にとどまり、大半の企業(営業時間58.8%、営業日数7割)は「変更なし」と回答しています。

一方、コンビニエンスストアでは、人手不足を理由にした24時間営業の見直しが実験的に始まりました。 コンビニの回答企業のうち、「営業時間を短縮した」企業が3社(33.3%)、「営業日数を減らした」企業が2社(22.2%)あり、他業態よりも営業時間への対応が先行している様子がうかがえます。 しかし、多くの小売企業が「お客様の利便性」を理由に、長時間営業という従来のビジネスモデルから脱却できずにいるのが実情ではないでしょうか。 私見ですが、この競争原理が、結果として従業員に過度な負担を強いてしまう悪循環を断ち切るには、業界全体での協調が必要だと強く感じています。

物流コスト高騰と業界再編の胎動

小売業を支える物流業の人手不足も、大きな影響を及ぼしています。 小売企業が対策として最も多く回答したのは「物流サービスの値上げの受け入れ」(33.8%)でした。 次いで「店舗への納品頻度を減らす」(20.6%)や「混載など他社との連携」(11.7%)が続いています。 物流コストの上昇は、小売企業の収益を直接圧迫する要因となります。 新規出店に伴う集客増や効率化で売上増を目指してきた各社の計画は、物流費の上昇によって頓挫する可能性をはらんでいると言えるでしょう。

この危機を乗り越えるため、業界内では合従連衡(企業同士が利害の一致によって提携・合併すること)の動きも見られます。 昨年、北海道地盤のアークスと中部地方のバローホールディングス(HD)、九州・山口のリテールパートナーズという食品スーパー3社が、資本業務提携を発表しました。 株式を相互に持ち合うこのアライアンスは「新日本スーパーマーケット同盟」と名付けられ、合わせて1兆円を超える事業規模を活かし、調達や物流の連携を進める狙いがあります。 人手不足は、小売業界に従来の競争の枠を超えた、新たな対策、すなわち業界再編を模索せざるを得ない状況を生み出しているのです。 しかし、この再編の動きはまだ本格的とは言い難く、多くの企業が抜本的な解決策を見出せずに苦悩しているのが現状でしょう。

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