人生の終着点を見据えたとき、自分はどのような時間を過ごしたいのか。そんな繊細なテーマを扱う「人生会議」を巡り、2019年11月に厚生労働省が公開した普及啓発ポスターが、大きな議論を巻き起こしました。人気芸人の小籔千豊さんが、死に直面し後悔を口にするという衝撃的なビジュアルは、「患者や家族への配慮が足りない」との指摘を受け、公開翌日に異例の撤回へ至っています。
そもそも「人生会議」とは、自らが望む医療やケアについて、前もって家族や医療従事者と繰り返し話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の愛称です。これは単に延命治療の有無を決めるための手続きではありません。自分が大切にしている価値観を共有し、もしもの時に自分らしい選択ができるように備える、心温まる準備のプロセスを指す言葉なのです。
ポスター自体は撤回されましたが、SNS上ではこの騒動をきっかけに、本質を見つめ直そうとするポジティブな動きが広がっています。「#勝手に人生会議ポスター」というハッシュタグが登場し、多くの人々が独自の視点で、死ではなく「生」にフォーカスしたメッセージを発信し始めました。行政の表現への批判を超えて、自分たちなりの「話し合いの形」を模索するユーザーが続出しています。
正解のない対話が、最期までその人らしい輝きを守る
注目を集めている投稿の中には、福井市のオレンジホームケアクリニックが制作した作品もあります。亡くなった男性が愛車に跨る写真と共に、娘さんの応援に駆けつけたエピソードが綴られたポスターは、胸を打つ内容です。紅谷浩之医師は、結論を出すことを急ぐのではなく、日頃から「何が好きか」を話し合う過程こそが、最期までその人らしくあるための鍵だと提言されています。
編集者としての私の視点では、今回の騒動は「死」というタブー視されがちな話題が、社会全体で共有されるべき重要なテーマであることを再認識させてくれたと感じます。衝撃で目を引く手法よりも、個々人の人生に寄り添う丁寧な言葉こそが必要なのでしょう。家族が顔を合わせる2019年12月16日現在の年末年始こそ、肩の力を抜いて大切な人の想いに耳を傾ける絶好の機会ではないでしょうか。
「死ぬ時にどうするか」を決めると構える必要はありません。普段の会話の中で、思い出話や好きな食べ物の話を積み重ねること自体が、立派な人生会議の第一歩となるでしょう。今回の騒動で高まった関心を一過性のものにせず、誰もが自分らしい人生のエンディングをデザインできる社会へと、議論が成熟していくことを切に願っています。
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