2020年01月03日、日本を代表する車いす陸上のレジェンド、伊藤智也さんが驚くべき再起の物語を明かしてくださいました。物語の始まりは3年前、2017年のスイスで開催された障害者用補助器具の競技会にまで遡ります。そこで当時、競技の一線を退いていた伊藤さんに声をかけたのが、革新的なカーボン製品で注目を集める株式会社RDSの社長、杉原行里さんでした。弱冠30代の若きリーダーによるこの出会いが、日本のパラスポーツ界を大きく揺るがすことになります。
初対面の際、杉原さんは「弊社でフルカーボンのレーサーを一から作り、世界一を目指しませんか」と、溢れんばかりの自信とともに提案したそうです。カーボンとは、炭素繊維を樹脂で固めた素材のことで、驚異的な軽さと剛性を兼ね備えています。50歳を超えていた伊藤さんは、当初その勢いに圧倒されました。しかし、最先端技術を惜しみなく投入するレーサーの可能性を熱く説く杉原さんの眼差しに、かつてない情熱を感じ取ったのでしょう。
実は伊藤さんは、難病の影響でロンドンパラリンピック後に引退を余儀なくされていました。しかし幸運にも病状が安定していた時期と重なり、「やってみようか」と現役復帰を決意したのです。こうして「白髪のおっさんを金メダリストにするプロジェクト」という、遊び心と本気が同居した挑戦が幕を開けました。SNS上でも「年齢を言い訳にしない姿勢に勇気をもらえる」「技術者とアスリートの共創が熱すぎる」と、世代を超えた期待の声が数多く寄せられています。
異能のチームが導き出す「走りの最適解」と信頼の絆
開発の舞台となった埼玉県のラボでは、徹底したデータ解析が行われています。伊藤さんの体に無数のセンサーを装着し、漕ぎ出す動作や力の伝わり方を詳細に数値化していくのです。このプロジェクトには、デザイナーやロボット工学の専門家など、多種多様なプロフェッショナルが集結しました。競技用の車いすである「レーサー」を、単なる用具ではなく、肉体の一部として再定義する試みは、まさに技術の結晶といえるでしょう。
興味深いのは、19歳年下である杉原さんと伊藤さんの独特な関係性です。杉原さんは最初こそ敬語を使っていたものの、今ではプロジェクトリーダーとして、年上の伊藤さんに対しても遠慮のない「タメ口」で指示を飛ばすといいます。伊藤さんはそんな彼を頼もしく感じており、夜の親睦会ではあえて聞き役に回ってチームの結束を楽しんでいるようです。このフラットな信頼関係こそが、妥協のないモノづくりを支える原動力となっているに違いありません。
私は、この挑戦こそがスポーツの真髄を体現していると感じます。年齢や病という壁を、テクノロジーと情熱で突破しようとする姿は、多くの人々に希望を与えてくれます。2020年08月の本番まで残り8カ月を切った今、2年半の歳月をかけて完成した至高のレーサーが、どのような輝きを放つのか目が離せません。最高の舞台で最高のパフォーマンスを披露することこそが、彼を支えた仲間たちへの最大の恩返しになるはずです。
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