最先端のトレンドが次々と誕生する中国のインターネット業界は、まさに目まぐるしい変化の連続を迎えています。スマートフォンの普及に伴い、人々のコミュニケーションを支えるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は、生活に欠かせないインフラとなりました。しかし、その競争は私たちが想像する以上に過酷なものです。昨日まで誰もが使っていた大人気アプリが、明日には急速に廃れてしまうような、文字通りの激動の時代が到来しているといえるでしょう。
こうした市場の厳しさを物語る象徴的な出来事が、2019年1月15日に発生しました。この日、中国を代表するIT大企業や気鋭のスタートアップが一斉に、新しいSNSアプリのリリースを発表したのです。まるで示し合わせたかのような同日の新サービス立ち上げは、業界内外で大きな注目を集めました。既存の巨大プラットフォームに挑戦状を叩きつけるかのような動きに、多くのユーザーが胸を躍らせ、インターネット上は大きなお祭りのようなお祭り騒ぎに包まれたのです。
特にSNS上で大きな反響を呼んだのが、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」への対抗馬として登場した新星たちでした。ウィーチャットは、日本の「LINE」のようにチャットや決済などあらゆる機能を集約した、中国で圧倒的なシェアを誇るスーパーアプリです。この絶対王者に挑んだのが、ショート動画の配信で若者に絶大な支持を得ているバイトダンスなどの競合企業でした。彼らが放った刺客は、瞬く間にネット上の話題を独占することに成功したのです。
当時のウェイボー(微博)をはじめとするSNSでの反応を見てみると、「ついにウィーチャットの独占が崩れるかもしれない」「新しい動画コミュニケーションの形にワクワクする」といった、期待に満ちた声が溢れかえっていました。最新のテクノロジーに敏感な若者層を中心に、ダウンロード数が瞬く間に跳ね上がったのも無理はありません。しかし、この熱狂は長くは続かず、ネット社会の冷酷な現実が容赦なく突き付けられる結果となってしまいます。
話題をさらった新アプリ群ですが、リリースからわずか数日という極めて短い期間で、その勢いは急激に失速してしまいました。ダウンロードの伸びはピタリと止まり、ユーザーの関心は潮が引くように離れていったのです。この凄まじい浮沈の激しさは、まさに「三日天下」という言葉がぴったり当てはまるでしょう。ユーザーの移り気な心理と、既存のインフラの壁がいかに厚いかを、改めて浮き彫りにした象徴的な出来事となりました。
このような現象が起きる背景には、圧倒的なシェアを持つ既存アプリの「ネットワーク外部性」が関係していると考えられます。これは、利用者が増えれば増えるほど、そのサービスの利便性や価値がさらに高まるという経済学の仕組みを指す専門用語です。全員がすでに使っているチャットツールから、わざわざ誰も使っていない新しいツールへ移行する動機は、ユーザーには生まれにくいという性質を持っています。巨人の壁を崩すのは、並大抵の事ではありません。
私は、今回の激しい覇権争いを見て、中国市場の圧倒的なエネルギーを感じると同時に、表面的な新しさだけでは生き残れない厳しさを痛感しました。どれほど革新的な動画機能やデザインを詰め込んだとしても、人々の繋がりという強固な土台を覆すのは至難の業です。しかし、こうした失敗を恐れない果敢な挑戦と新陳代謝こそが、中国のデジタル社会を驚異的なスピードで進化させている原動力であることは間違いないでしょう。
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