日本の陸上界がかつてない沸騰の時を迎えています。男子100メートルという花形種目において、2019年7月に日本人3人目となる9秒98を叩き出した小池祐貴選手(住友電工)は、まさにその中心人物と言えるでしょう。自己ベスト10秒17から一気に世界の背中を捉えた24歳の若きスプリンターは、多忙を極めた今シーズンを「せわしない1年だった」と静かに振り返ります。
小池選手が今年、最も重きを置いたのは、あえて厳しい欧州のレースを転戦することでした。これは「ダイヤモンドリーグ」と呼ばれる、世界最高峰の陸上競技大会シリーズを主戦場にするという強い決意の表れです。SNS上でも「小池選手のタフさは異常」「世界と対等に戦う姿が頼もしい」といった、彼の積極的な海外挑戦を称賛するファンの声が数多く寄せられています。
世界の一流選手と同じスタートラインに立っても動じない「場慣れ」こそが、今の彼が求める武器です。実際に7月のレースでは、ヨハン・ブレーク選手といった歴史に名を刻む強豪に食らいつき、ライバル桐生祥秀選手らに先着する4位という好成績を収めました。単に速いだけでなく、移動や環境の変化に左右されない精神的な図太さを、過酷な転戦の中で着実に手に入れているようです。
「9秒台」への無関心が生んだ驚異の成長曲線
周囲が熱狂する「10秒の壁」の突破についても、本人の反応は驚くほど冷静です。「みんな9秒台が好きだな」と笑うその姿からは、記録への過度な執着が動きを硬くするという真理を理解している様子が伺えます。目標をタイムそのものに置くのではなく、自己ベストを更新し続ければ結果は自ずとついてくるという、彼独自の合理的なアスリート哲学がそこには流れています。
本来は200メートルを専門としてきた小池選手ですが、現在は100メートルへの意欲も隠しません。2019年秋の世界選手権では決勝進出を逃した悔しさを味わいましたが、その経験が彼をより賢明にさせました。万全のコンディション管理こそが勝負の前提であると再確認した彼は、2020年の夏に開催される東京五輪に向けて、ピーキングの精度をさらに高めようとしています。
11月中旬から開始した冬季練習では、臼井淳一コーチの指導のもとで「走りのベースアップ」に励んでいます。彼は、自身の最高速度に達するまでのプロセスやペース配分を噛み合わせることで、まだ記録は伸びると確信しているのです。注目を浴びることは苦手だと語りながらも、ありのままの自分で戦う強さを身につけた今の彼には、無用なプレッシャーは見当たりません。
東京五輪に対しても「たまたま東京で大会がある」と自然体を貫く小池選手ですが、その頭脳には緻密な戦略が描かれています。決勝の舞台では外側のレーンを走る状況まで想定し、周囲に惑わされず自分の走りを貫くビジョンを固めているのです。この淡々とした姿勢こそが、大舞台で歴史を塗り替えるための最大の武器になるのかもしれません。
コメント